社団法人 全国公立文化施設協会
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見出し指定管理者制度の導入により、事業及び運営が活性化した公立文化施設の紹介

1 大自然との共生で育まれる富良野演劇工場の演劇によるまちづくり
〜文化観光政策に貢献する温もりのある会館運営へ〜
施設名 富良野演劇工場
設置者 富良野市(北海道)
指定管理者名 特定非営利活動法人(NPO)ふらの演劇工房

はじめに
   富良野市のイメージとして、何を思い浮かべるだろうか。ラベンダー、大自然の山々、豪雪地帯、スキー、倉本聰、等々。人口約2万5千人の小さな街がこんなにも多くのイメージを連想させてくれる。
 そのきっかけとなったのは、1981年から22年間放送されたフジテレビジョン制作「北の国から」である。ドラマの舞台となった富良野市がお茶の間で一躍脚光を浴びたことが、一地方都市のブランド化につながった。北海道の雄大な自然の中で繰り広げられる家族の人間ドラマは、倉本聰氏の脚本・さだまさし氏の作曲・スキャットによる主題歌、田中邦衛氏らの名演によって、視聴者の心を見事に捉え、生きる希望と感動を与えた。
 倉本氏が富良野に居住を構え、富良野塾を開設する中で演劇活動がスタートしてから26年の歳月が流れ、平成22年1月公演を持って劇団活動にピリオドを打つ。しかし、「富良野演劇工場」にその演劇活動の精神は継承され、富良野塾で育った塾生らが倉本氏の演劇理念を受け継いで、ドラマの生まれる街への夢を紡ぎ続けることになっている。

1 富良野市の概況
   富良野市は、上川支庁管内の南部に位置し、北海道のほぼ中心にあり富良野盆地の中心都市である。総面積は600平方キロメートル、東方に大雪山系十勝岳、西方に夕張山系芦別岳、南方には千古の謎を秘めた大樹海があり、市域の約7割が山林という自然環境にある。
 富良野の語源は、フーラ・ヌイ(フラヌイ)というアイヌ語が転訛したという。十勝岳から流れる川水に、硫黄の臭気があるため、飲むに堪えぬという意味である。
 市の開拓は明治29年に区画設定が行われ、翌年に福岡県出身中村千幹(なかむらちから)氏が入植したのをきっかけに、明治32年に役場が設置された。大正8年に町制となり、昭和41年道内29番目の都市として富良野市が誕生した。
 人口は、25,076人(平成17年国勢調査)、財政規模は、180億3,860万円(平成21年当初予算)、産業別人口は、第三次産業が約65%を占め、年間観光入込者数は約188万人である。ちなみに「北の国から」の最終回となった平成14年は約249万人が訪れている。近年は、入込者と宿泊客は減少しているが、宿泊延数の増加と長期滞在傾向にある。
 特産品は、富良野ブランドの定着と全国発信から、ふらのワイン、ふらのぶどう果汁など、大自然の「ふらの」を全面に押し出した商品開発をしている。

2 富良野市の文化芸術振興政策
 「ふらの新次代をひらく富良野市総合計画」が主要構想であり、めざす都市像は、「快適な環境、創造性豊かなひとを育む−協働・感動・生き活きふらの−」として、平成22年度まで計画されている。平成18年度には富良野市第5次社会教育・社会体育中期計画が策定され、施策毎に5カ年の推進目標と推進項目が立てられている。文化芸術の推進に関しては、第4章の社会教育の項目に位置づけられ、さらに平成21年度における富良野市教育計画にも、より詳しい事業推進が明記されている。
 平成21年度の芸術文化事業予算の総額は、32,424,000円が計上され、主な事業計画は以下の通りである。
  1 優れた舞台芸術の鑑賞機会の提供…富良野芸術文化事業協会
  2 児童生徒を対象とした舞台芸術の鑑賞機会の提供…子ども芸術鑑賞教室
  3 市民・小中学生による演劇祭の実施…ふらの演劇祭
  4 富良野演劇工場指定管理委託…富良野演劇工場運営及び事業支援
  5 舞台芸術の裾野の拡大、人材育成、ネットワークの促進を目的とした近隣市町村の関係団体と連携した事業の実施…舞台塾ふらの・そらち事業

3 富良野演劇工場の概況(プロフィール)
   平成12年10月にオープンした全国初の公設民営劇場である。24時間使用可能なものにするために、民間による運営を選択した。建設にあたって、富良野市在住の倉本聰氏が深く関与し、舞台を制作する側のニーズを充分考慮した劇場である。来館者数は、平成20年度32,414名、オープンから通算すると228,929名の記録を達成した。現在は、富良野の新しい観光スポットとして注目されている。
 演劇工場の建設コンセプトは、以下の3つを基本として、夢と誇りを持って運営されている。
    1 「演劇ソフトの生産工場」として、その機能性を活かした良質で個性的な演劇文化の創造と発信活動を行い、「大いなる感動を生み出すための活動拠点」とする。
    2 民間ボランティアによる柔軟で独創的な運営を図り、すべての人々に愛され活用される「市民文化の活動拠点」とする。
    3 様々な人々との交流を通して未来へのエネルギーが創出される「人づくり・まちづくりの活動拠点」とする。
   

 平成12年4月より、NPO法人ふらの演劇工房が管理運営を受託し、平成16年度6月より全国に先駆けいち早く指定管理者制度を導入した。指定期間と指定管理料は以下の通りであるが、第2期目からは保守点検料等も含んでいる。

第1期指定期間 平成16年4月−平成17年3月年間指定管理料 約1,452万円
        平成17年4月−平成21年3月年間指定管理料 2,000万円
第2期指定期間 平成21年4月−平成26年3月年間指定管理料 約2,600万円

 工場スタッフは、芸術監督として創造役に倉本聰氏が就任し、常勤の工場長(施設長)1名、事務職1名、技術スタッフ2名で運営され、市民による運営委員会がサポートしている。付属の創造集団として、倉本聰氏が主宰する富良野塾がフランチャイズしており、夏期と冬期にロングラン公演を実施している。工場の年間稼働率は平均7割を保っているが、平成20年度の財政規模は、5,000万円弱である。


4 施設運営管理現場と自主文化事業の課題及び課題解決に向けた努力
  (1)施設運営管理現場の課題
 工場のオープンから10年を経て、様々な課題が顕在化している。地域における人材難、自主自立したNPO運営に立ちはだかる財政難、職員の労務管理など、いずれも、中長期的観点から捉え直さなければ解決できない課題に直面している。
    1 施設設備の老朽化、機材や備品関係の交換、将来の大規模改修や修繕などにかかる費用捻出
    2 最少人数による施設管理運営とサービス向上のバランス
    3 若手理事と運営スタッフの慢性的な人材不足
    4 収入源の確保として、会員や支援者の拡大、寄付集め、スポンサー探しなど、外部資金調達の強化
    5 法人の性格上、意思決定に相当な時間を要すため、柔軟性や効率性(将来予測含む)を伴ったより一層の理事会の活性化
    6 社会情勢や経済状況などの影響から、燃油代や光熱費の高騰による支出増
    7 将来的な人員増に伴う財源の確保
 

 

(2)自主文化事業の現状と課題

  1 現状
 富良野塾とのフランチャイズによりスタートした自主文化事業は、現在、夏期と冬期それぞれ約1ヶ月間のロングラン公演の実施にまで成長し、平成21年度は、合計1万4千人の鑑賞者が富良野を訪れた。
 ロングラン公演に向かうきっかけとなったのは、平成17年度8月、今後の自主文化事業を検討するため、米国オレゴン州南方に位置する人口2万4千人の小さな街アシュランドを理事、職員、関係者が視察した。街ぐるみで文化観光政策に取り組んでいるその街は「オレゴン・シェイクスピア・フェスティバル劇場」を拠点にシェイクスピアを中心とした演劇を連日連夜上演し、オレゴンの雄大な自然との共生の中で、全米はもとより、世界120都市以上、約38万人の観光客で賑わっている。
 この劇場をモデルとして、富良野演劇工場も本来事業のロングラン公演で事業収益を上げると共に、富良野市のさらなる地域活性化を狙いたいと考えた。その甲斐あって、近年、工場の活性化による外部経済効果の向上が目に見える成果となって現れ始めたという。ロングラン公演の他に、平成20年度において24事業の演劇事業を始めとする多彩な公演を実施している。また、著名なアーティストらが演劇工場のファンとなり、不定期で好意的に公演を実施するなど、プロ・アマを問わず、幅広い人々から愛されている。
  2 課題
 施設管理運営現場の課題とほぼ同様な課題が挙げられる。
a) 助成金申請による事務の増量…補助金獲得のための自主文化事業になってしまえば、演劇工場のミッションを見失う危険性が高くなる。慢性的な財政難の克服は、本末転倒にならぬよう、補助金に依存しない事業推進に努めることと組織の体力づくりの必要性に迫られている。
b) ロングラン公演の定着と拡大…富良野市の文化観光政策とタイアップしながら、中長期的な観点から戦略的に推進することが求められている。
c) アートマネジメント人材(常勤スタッフ)の雇用…財政難の克服と共に、将来富良野市の文化芸術振興を担うアートマネジメント人材の育成を手掛けなければ、工場のさらなる発展は望めないとしている。
d) 鑑賞者の開拓…観光ルートに乗った観光客の取り込みを狙い、新しい鑑賞者の開拓と工場を愛する鑑賞者のリピーターづくりの取り組みに迫られている。
  3 課題解決に向けた努力
    a) 良質な作品製作で勝負する
    b) 本来事業で自主財源を高める
    c) 集客から脱却して創客へ転換する
   a)からc)の努力目標は、すべて連動している。核となる自主文化事業であるロングラン公演等の作品の質を高めていかないことには、全国に点在する倉本ファンを富良野に呼び寄せることはできない。また、演劇に馴染みがない観光客の評価が高くなければ、鑑賞者の新規開拓につながらないし、リピーターにも成り得ない。作品の評価が安定すればするほど鑑賞者は増加し、本来事業としてのロングラン公演での自主財源率はどんどん高まっていく。その高まりに呼応するように、富良野演劇工場のファンが増え、常連客となり、集客から創客への流れと共に、鑑賞者の質の転化が測られる。「これら不断の努力をすることによって、地方都市における自主文化事業が新しく形成される」と工場長の太田竜介氏は力説する。

5 指定管理者の自己評価
   「創立者から継承されたミッションをどのように次世代に受け継ぎ、さらに発展させていくにはどのような経営をするべきか」
 これが演劇工場の自己評価であった。モチベーション維持の難しさ、中長期的な会館運営の必要性、財政基盤の確立などは、かなり厳しい自己評価を持たれていた。一方、高等学校の演劇科創設や演劇や工場を愛する精神と利用サービスの徹底は、今までの成果が実を結んだ評価として捉えられている。
    1 オープン当初の目的と情熱をどのように維持、発展させていくのかが難しい。
    2 中長期計画の策定が必要である。
    3 明確な目標の設定が必要である。(5年目あたりで見失った目標の再設定)
    4 財政基盤の強化とその確立を図る。
    5 高等学校における演劇科の創設予定がある。教育長が積極的に推進。富良野市の道立高校2校のうち1校について、演劇科を設置するよう道教育委員会と折衝中。将来的に富良野塾生が教員として指導する予定である。
    6 良い工場スタッフがいることがすべてである。演劇を愛し、工場を愛し、富良野を愛するスタッフが、作品創造に関わる。貸し館の管理者であっても、招聘公演のスタッフの一員として積極的にかかわることが必要である。例えば、先方からの仕込み図を元に、先行して仕込めるところは仕込み、利用者を温かく工場に迎え入れ、気持ちよく公演ができるよう創造環境を整える。

6 指定管理者に対する設置自治体の評価
 

 富良野市教育委員会は、第2期指定管理者選定にあたって、平成16年度から平成20年度までを高い評価で以下のようにまとめている。課題としては、前述と同様に、安定した運営財源の確保、教育委員会との定期的な情報交換や運営委員会の活性化があげられた。

【全体評価】
 公設民営による劇場は、市民と行政の「協働」の舞台であり、NPO法人ふらの演劇工房が、皆で育てる皆の劇場を基軸に活動の継続性の中で、市民のボランティアに支えられ、人の輪が広がり文化交流活動の拠点として独創的な運営に努めており高く評価されている。

    1 演劇を核に様々な補助金を活用し、自主事業など多彩な取り組みを進めている。
    2 市内、全道、全国へのネットワークづくりに寄与している。
    3 創る劇場、演劇によるまちづくりに向け、活発な取り組みを進めている。
   


【施設管理運営や自主文化事業での主な評価】

    1 市民ボランティアによる市民へのサービスと地域貢献
    2 工場長の熱意・高い専門性・斬新なアイディア
    3 技術スタッフの高い技術力の提供
    4 市民や次世代を対象とした演劇祭への積極的な支援
    5 児童生徒を対象とした舞台芸術の鑑賞機会の提供と良質なワークショップの展開
    6 舞台芸術のすそ野の拡大や人材育成
    7 幅広いネットワーク形成の促進

7 指定管理者による活性化の要因
   特定非営利活動法人の取得や指定管理者制度など、全国に先駆けて導入し、新しい文化施設のあり方を挑戦し続け、牽引してきたことは、我が国の地域における公立文化施設の先駆者として大いに評価すべきことと考える。
 行政では行き届かないきめ細かな市民サービスを提供する「新しい公共」という理念に基づき、演劇を媒介として、創造と発信の拠点施設と位置づけ、独創的なまちづくりが展開されている。
 この展開をさらに発展させるためには、国レベルでNPOへの支援基盤を制度的に見直すことや自立循環型の劇場経営を文化観光政策の一環として推し進めていくことが重要と思われる。
 以下、指定管理者による活性化の要因を取りまとめた。
    1 設置自治体の明確なミッションと総合計画への位置づけ
指定管理者制度で発生する大方の問題は、設置自治体側の問題として捉えることができる。その理由は、設置自治体側に当該地域における文化芸術振興のミッションが存在しないこと、また、当該文化施設に何を期待するのかといった要求水準が不明確であることが一番の要因である。富良野市においては、市の総合計画の明確なミッションと共に、5カ年毎に見直される社会教育中期計画に芸術文化振興が明確に位置づけられている。
    2 指定管理者の明確なミッション
特定非営利活動促進法は、民間における市民の非営利活動を促進する目的で制定された法律である。純然たるボランティア組織としてよく混同されがちであるが、本来は、民間非営利活動を実践していく事業体である。従って、自主的かつ主体的な市民活動が求められ、その活動の成果は、ミッションが達成されたか否かが評価基準となる。演劇工房には民間非営利団体として、明確なミッションが具体的な行動目標と共に存在し、演劇工場には、創造発信拠点としてのミッションが市民にわかりやすく明文化されている。
    3 芸術責任者の設置とアートマネジメント専門人材の配置
倉本聰氏という偉大なアーティストを核とし、倉本氏を慕って入塾した団員で構成される演劇創造集団富良野塾とのフランチャイズが、独創性に富んだ劇場運営を可能にした。また、塾生たちの中には、俳優だけでなく、優秀な技術スタッフやアートマネジメント人材が輩出されており、地域において継続的な作品創造の重要性を浮き彫りにしている。教育委員会が工場長の熱意や専門性を評価しているように、今後ますます、地域におけるアートマネジメント人材の需要を高める必要がある。
    4 市民ボランティアが市民サービスを提供する
演劇工場には、多くのボランティアスタッフが在籍している。劇場ボランティアは単なるお手伝いさんではなく、演劇や劇場の知識と専門ノウハウを持ち合わせた人材でなければならない。市民が市民一人一人を支え合う共生社会はこれからの日本にとって重要な課題である。演劇工場に来場するお客様を笑顔で迎え、安心安全な創造空間を提供することは容易ではない。しかし、市民ボランティアの下支えと積極的な関与がなければ、公設民営型の地域劇場としての存在意義は希薄になる。
    5 地に足のついた施設運営とここでしかできない自主文化事業を目指す
今回の調査では、財源の確保や安定的な施設運営が多く指摘されている。補助金獲得や外資導入は施設経営者にとって必須業務であるが、それが行き過ぎると本来事業が圧迫され、作品の質の低下や施設運営に支障が生じる。そのバランスをどのように保ち、オリジナリティのある劇場経営ができるかが重要である。
「自分たちの財源は、自分たちがなすべき本来の文化事業で確保し、自主財源率を高めて経営していけるよう創意工夫しなければならない。アートマネジメント力やそのスキルを身につける努力を惜しまない」太田工場長の言うこの言葉は、10年間の実績とキャリアに裏付けされた経営方針である。

おわりに
   10年ぶりに訪れた11月の富良野は、とても暖かであった。富良野線に入ると両側には残雪があったが、市内は積雪もなく、到来する本格的な冬を前に、街はひっそりと呼吸していた。
 しかし、暖かく感じられたのは、気候のせいだけではなかった。演劇工場から発せられる「温もりとしての暖かさ」であることを帰路の空港バスの中でふとそう感じた。
 演劇工場での催事はなかったが、確かに「人」の存在が感じられた。「人」が住み着いているのだ、「人」の魂が宿っているのだと思った。そんな余韻を胸に、日本の公立文化施設が、指定管理者としての役割と責任を果たし、それぞれの文化施設を活性化し、地域における文化芸術がさらに花開いていくことを願わずにはいられなかった。
(柴田 英杞)

 


 

2 直営管理から指定管理制度への移行、二巡目を迎える公募
  〜民間共同企業体の指定管理業務への取組み〜
施設名 三島市民文化会館 ゆぅゆぅホール
設置者 三島市(静岡県)
指定管理者名 株式会社エスビーエスプロモーション・
       株式会社エスピーエスたくみ・
       株式会社NTT ファシリティーズ東海支店

  はじめに
 三島市は、静岡県の東端に位置し、一部が神奈川県とも接している位置関係にある。現在では新幹線三島駅もあり、東京に1時間弱、名古屋に1.5時間程度でアクセスできる。現在の人口は、11万2,000人程度。三島市民文化会館が建設された1991年当時の人口が11万人弱で、その後も着実に人口増加が進んでいる。
 三島市民文化会館ゆぅゆぅホールは、JR線三島駅にほど近い市民公園の一角に整備をされ、1991年4月に開館を迎えた。大ホールが1,198席、小ホールが355席で、どちらも同じプロセニアム形式の舞台を持つホールで、それぞれ同様に音響反射板を持つ。両ホールともに基本的機能が同じであることから、利用する催物規模や動員される観客数による使い分けが、施設計画時の想定であったかも知れない。ただし、ホール施設だけではなく、リハーサル室×1室、練習室×2室、会議室×5室及び和室に加えて別棟茶室梅御殿(和室×6室)を複合する延床面積9,600m2弱の施設規模を誇る。建設から今年で19年を迎えることから、施設や設備の経年劣化が各所で目立ち始めており、徐々ではあるがそのことが課題になりつつある。
 三島市民文化会館は、開館以降、直営での運営を行なってきたが、2003年9月の地方自治法改正による指定管理者制度施行直後から制度導入に取り組み、翌年2004年10月には、指定管理者の公募を実施し、2005年4月から直営を指定管理者制度に切換えて運営をスタートさせている。三島市民文化会館の指定管理者制度導入の対応は、全国的にも先鞭をつける事例で、公立ホールでは三重県文化会館や磯子区民文化センターなどに続く早期の導入事例のひとつであった。特に市が、文化芸術系の公益法人を持たず、開館以降直営での運営が行なわれてきたため、指定管理者の選定では、民間事業者が選定されることが前提となる公募としても注目をされた。私の記憶が正しければ、三島市民文化会館は、公募による指定管理者選定で民間事業者が指定管理者に選定された最初の事例ではなかっただろうか。
 既に一巡目の指定期間が満了し、二巡目の指定期間に入っている。今回の調査の着眼点は、直営館が指定管理者制度を早期に導入した事例であること、指定管理者制度導入の当初より民間事業者が指定管理業務を委任される団体になったことなどがある。さらには、既に一巡目の指定期間が満了し、再公募の上二巡目の指定期間を迎えていることなどに着目してインタビューを行なった。

[三島市民文化会館ゆぅゆぅホールの施設概要]
 
プロセニアム形式の舞台を持つ劇場
大ホール:1,198席(楽屋5室)、小ホール:355席(楽屋3室)
延床面積:9,558.31m2
リハーサル室:116m2、第1練習室:66.6m2、第2練習室:52.8m2
大会議室:120.6m2、第1会議室:60.3m2、第2会議室:60.3m2、第3会議室:44m2
特別会議室:67m2、和室:30畳、梅御殿(別棟):和室6室53畳

第1回目(2004年)の指定管理者公募
 

 三島市民文化会館の運営を直営から指定管理者に転換する指定管理者公募が実施されたのは、開館から13年目であった。それまでの運営は、直営で行なわれてきたことから、三島市民文化会館を運営していくためにどの程度の経費負担が必要であるかということや場合によっては、経費縮減の可能性についても公募要項を作成する三島市の担当部局は十分に承知していたことと考えられる。
 以下には、第1回の公募要項を縦覧した上で、記載内容などで特徴的な点、疑問を覚える点などについて列記をした。

三島市文化会館に期待される使命について、一部明文化されている。また、まちづくり事業への貢献策や環境先進都市実現について市としての指針は理解できるが、指定管理者の果たす役割や業務に対する期待などもう少し具体性があることが望まれる。
公募スケジュールは、2004年度内での実施で、公募から指定管理者の指定議決、2005年3月までの業務の引継。2005年4月1日指定管理者協定の発効を目指している。
予定されている指定管理料金については、公募要項上は開示されていない。また、債務負担行為が実施されるかどうかも書面上は不明。ただし、実際には債務負担が行なわれているということである。
三島市が支払う経費の中に、事業費は見込まれていない。しかし、3年間の指定期間に指定管理者が実施する文化事業の概要と取り組み方についての提案を求めている。つまり、文化事業の原資は支払わないが事業実施が業務基準となっている。
利用料金制が当初より導入をされている。
審査委員会の人数や構成員など具体的な内容が開示されていない。また、審査の基準も極めて表層的な内容で、審査基準や期待する業務の重心が不明。
三島市及び指定管理者のリスク分担が明示されていない。

 以上、公募要項を眺めた上で、ポイントとなる内容を列記した。この公募要項が公開されたのが今から5年ほど前のことになるが、今日的な視点で眺めると上記のような課題が懸念される。ただし、当時はまだ公募どころか公立ホールの指定管理者制度の導入の先行事例が数少ないことから、公募のシステム自体が未整備な状況にあった。その点を考慮すれば、情報量としては十分ではないにしろまとまった内容になっていると考えられる。もちろん、実際の公募においては、質疑回答などを通して、上記以上の情報が開示がされているものと考えられる。


第1回目(2004年)の指定管理者公募結果
   第1回目の公募が指定管理者制度導入から早い時期であったことから大変に関心が高い公募案件のひとつであったと記憶をしている。特に公募といいながら、管理委託制度下で長年当該の施設運営に深く関わってきた公益法人がある場合、民間事業者が新規参入を果たすためのハードルは大変に高いことが想定される。さらに、早期であればあるほど、公募要項に示されている内容や業務基準がまちまちであり、何を意図しているのかさえ理解に苦しむような案件が目白押しであった時期であった。
 先にも書いたが、三島市民文化会館は直営で運営されてきた公立ホールが指定管理者を一般公募した最初の事例ではなかっただろうか。それまでが直営であることから、民間事業者が間違いなく選定をされることが前提の公募である。そのため民間事業者の関心も大変に高かったはずである。
 当時の記録をみると、少なくとも提案書を提出したのが9団体(構成組織15社)である。応募団体には、現在全国各地の文化芸術系施設の指定管理者に選定をされている団体の名前も含まれている。他には、舞台芸術系の企画製作会社、ビルメンテナンス会社、劇場ホール系施設の管理運営受託会社、清掃警備会社、印刷会社、特定非営利活動法人などが含まれている。
 この中で最終的に指定管理者となったのが「株式会社エスビーエスプロモーション・株式会社エスピーエスたくみ」の共同企業体である。この内、株式会社エスビーエスプロモーションは、静新SBSグループ(静岡新聞社及び静岡放送を中核とする企業グループ)を構成する組織であり、地域での認知度は大変に高い。また、株式会社エスピーエスたくみは、静岡県内を中心としたホール施設の舞台技術管理業務受託実績を豊富に持つ会社である。この両社の役割分担であるが、エスビーエスプロモーションは「広告・マーケティング業務」「保険業務」「旅行業務」を営業科目として掲げる企業であるが、指定管理者の応募に際しては、文化施設の事業や運営を担当する。また、エスピーエスたくみは、舞台技術管理業務だけではなく、舞台のプランニングや舞台設備のオペレーション、舞台関連デザイン及びディスプレイなども行なう組織であることから、舞台設備の管理運営を中心とした舞台関連業務を行なっていくことが期待をされた。実は、エスピーエスたくみは三島市民文化会館の開館当時から舞台関連業務を受託している会社であり、その実績もある程度指定管理者選定の評価対象になったかも知れない。

指定管理者制度導入の成果
 

 総括的な評価としては、民間事業者が指定管理者に選定をされていることで、いくつかの点で成果が上がっていると考えられている。例えば、利用率や入場者数、利用件数などが右肩上がりに増加をしている。これは、週休1回の休館を月1回に改めたことにも起因するが、その休館日の設定変更も指定管理者の提案であることを踏まえれば、定量的な増加に対する評価も制度導入の成果といえる。また、利用者に対するサービスやホスピタリティ、さらにホームページなども民間事業者ならではの工夫がされるようになってきている。
 ただし、文化事業に対する評価は、様々である。そもそも三島市は事業実施のための費用負担をしていないことから、具体的な指導・助言が行ないにくいところに加えて、指定管理者の応募時に事業企画提案を行なっており、そのことが評価をされて指定管理者に選定もされている。2004年度に行なわれた指定管理者の審査項目で合計1,000点満点の内、文化事業に対する提案が60点満点、それに対して「株式会社エスビーエスプロモーション・株式会社エスピーエスたくみ」の共同企業体は、全項目を通して唯一の60点満点を獲得しており、提案された事業内容について大変に高い評価が行なわれていたことがわかる。しかし、事業によっては集客が期待したほどでないことや収支の点で負担が大きくなるような事業については、様々な意見が寄せられるようである。
 もちろん、指定管理者の負担事業であるから実施される内容に特段の問題がなければモニタリングの指導・助言の範疇でないかというとそんなことはない。むしろ、定量的な視点でしか評価できないというのであればそれは問題がある。そもそも、三島市民文化会館が目指す使命の明確化とそのために行なう事業の位置づけ、あるいは成果の活かし方など定性評価について、施設設置者である三島市と指定管理者間での実質的な検討を深めていくことが望まれる。もちろん、最終的には指定管理者の評価という次元の問題ではなく、三島市民文化会館の政策評価をしっかりと行なっていく必要があるのではないだろうか。


第2回目(2007年)の指定管理者公募
 

 第一回目の指定管理期間が3年間でその3年目である2007年に指定管理者の再公募が行なわれた。指定期間が3年間の場合、実質2年の実務期間を経て指定期間の最終年である3年目に再公募が行なわれる。つまり、実質的な指定管理者の事業成果を示せるのは2年間しかない。これまで見聞きをしてきた中で、どんなに優れた指定管理者が業務を引き継ごうとも指定管理者が交代すれば一時的にサービスは大きく低下する。ただし、優秀な指定管理者であればあるほど、元のレベルに戻るのは早い。しかし、期待される能力が発揮できなければ、元のレベルまでサービスが回復するのに時間がかかることになる。そもそも指定管理者を変更するということは、サービスの向上を目指した選択であるはずなので、サービスが元のレベルに戻ることの早い遅いではなく、前以上のサービスを提供することが指定管理者交代の目的である。ただし、サービスの回復に1年以上かかる場合、前の指定管理者に大きな不具合がなければ、再公募を行なうこと自体、益のあることとは考えられない。本来、そのようなことも踏まえて再公募の実施や指定管理期間の設定などが検討されることが必要なのである。
 三島市では、第1回目に選定をされた指定管理者に何らかの不具合の有無ということではなく、定められた指定期間を満了したことから再公募を実施した。もちろん、指定管理者の業務に対する緊張感を維持していくためには、定期での事業評価は重要なことである。しかし、再公募となると第1回目と同じかそれ以上の提案のための負担を強いられることになり、短期間でそのことを繰り返すことが提案する側の疲弊に繋がらないか懸念をされるところである。業務に対する真摯な姿勢を堅持していくための手法であれば、別の評価手法も検討できるものと考える。
 以下には、第1回目の公募要項と比較して、記載内容などで特徴的な点、疑問を覚える点などについて再び列記をした。

三島市民文化会館に期待される使命について、一部明文化されているが、まちづくり事業への貢献策や環境先進都市実現に対する表記は変っていない。
公募スケジュールは、数日間早められた程度でほぼ同じである。ただし、前回応募団体数が9団体であったことに配慮し、2段階審査を実施されている。つまり、ヒアリングを実施する団体を一日で終了できる団体数に事前に絞り込むスケジュールになっている。
指定管理料の上限額が新たに具体的額面として公募要項に示されている。また、指定期間も3年から5年と長くなっている。
やはり前回の公募と同様に三島市が支払う経費の中に、事業費は見込まれていない。また、前回同様に指定期間5年間に指定管理者が実施する文化事業の概要と取り組み方についての提案を求めている。
利用料金制は、前回同様に予定をされている。
審査委員については「三島市指定管理者審査委員会」が審査に当たる旨が公募要項に明示された。具体的な人数や構成員などの内容は不明のままであるが、審査の基準や採点方法などが具体的に示されるようになった。
これも新たに追加されたことであるが、リスク分担の考え方が示されている。内容も基本的に指定管理者が安心できる内容になっている。

 以上、前回の公募要項と比較しつつ、新たに付け加えられたところや変更された点、そして相変わらず変化のないところを再掲した。前回の公募から3年、この間に指定管理者への移行措置期間が満了し、制度自体は様々な歪みを抱えつつ落ち着けるところに先ずは落ちつかせたという感があった。文化もそうであるように、時間をかけて形を創っていく。その経緯の中ではある時の歪みや揺れも時間の経緯とともに全体を見渡せば個性にも見えるようになる。もちろん、指定管理者の要項をそれほどの時間をかけて形づくるものではないが、新たな筆が加えられるのが当然であり、文化を扱う施設である以上、時代とともに求める基準も進化していく必要がある。
 二巡目の公募要項では、曖昧な部分がかなり加筆された。前回では不足していたり、懸念される内容であったところが解消されたことは歓迎したい。例えば、指定管理料の上限額が示された上、採点基準も示されている。この採点基準を見ると収支予算の提案は、1,100点満点の内70点程度に押さえられている。そうなると応募者は安易に経費の縮減に知恵を絞るようなことはしなくなり、運営などの提案を充実することに知恵を働かせてくれるようになる。ただし、相変わらず事業実施の義務とそのための経費負担の責務がリンクしていない。経済的低迷期が長期化していることが、財政を逼迫させ新たな投資が難しいことは理解できる。しかし、本来文化の発信拠点になることを目的に、手段として整備をされたはずの三島市民文化会館が、いつの間にか維持していくことが目的となってはいないか。そんな主客の逆転は全国各地で起りはじめている。


第2回目(2007年)の指定管理者公募結果
 

 結果からいうと、前回に引き続き株式会社エスビーエスプロモーションと株式会社エスピーエスたくみを中心とする共同企業体が指定管理者に選定をされている。ただし、前回と違うのは、共同企業体に新たな組織が加わった。それは株式会社NTT ファシリティーズ東海支店である。株式会社NTT ファシリティーズ東海支店は、この指定管理者の共同企業体の中では、施設の維持管理部門を受け持つということであった。つまり、維持管理業務を前回の指定期間以上に精査し、効率的に運用していくために新たに加えられたということであった。
 また、今回の公募では、前回の教訓を踏まえて2段階選定方式をスケジュール化したが、説明会に参加したのが13団体、応募書類の提出のあった団体が4団体、2段階目まで残ったのは3団体(構成組織5社)であった。応募団体数の減少は全国的な傾向で、指定管理料が相当額期待できる施設や指定管理業務を請け負うことがネームバリューに繋がるような施設でなければ多くの民間事業者が挙って応募するようなことはない。昨今の案件であれば5〜6団体の応募があれば多い方になるだろう。それは、応募する民間事業者がどこでも何でも応募するということを控えるようになってきたことが主たる原因である。さらに言えばホール施設の指定管理料は、三島市民文化会館のように事業を義務づけているところもあることからリスクを伴う可能性が少なからずある場合が多いことやそもそもの指定管理料が薄利であること、また、指定期間が3〜5年のケースが多く、その期間毎に大きな応募コストと選定されないというリスクを負って応募することが多くの事業者の負担になってきていることなどが考えられる。
 今回の応募された団体は、前回僅差で最優秀交渉権者を逃した、全国で指定管理業務を展開している団体と地域での舞台関連業務を行っている団体であった。
三島市民文化会館の指定管理者公募から学ぶ課題
 三島市民文化会館は、まとまった施設規模を持つ施設である。ただし、年間の指定管理料は想定で1億円前後。単純に考えてもその額では、9,600m2程度の施設の維持管理相当額を賄うのも厳しい金額であると考えられる。そうなると少なくとも不可欠な人件費と事業費のリスク分(基本的に事業は出と入りが同じであることを前提)を他の収入で賄う必要がある。期待できるのは、利用料金収入だけで、指定管理料にこの利用料金収入を加えた額がほぼ年間の経営原資になると考えられる。
 当然、この中から事業費を捻出するが、ある程度回収見込みがない事業には投資が難しい。特に人材育成や普及系の事業のようにワークショップやアウトリーチなどは、出金は発生するが回収が見込めない事業であり、事業財源がなければ取り組みにくい。今年度で約17本の自主事業が予定をされているが、多くは鑑賞系の事業である。この鑑賞系事業も全てを買取りで実施しているわけではなく、主催・共催と事業実施の組立方も様々な工夫を凝らして実施している。ただし、やはり事業は水物でリスクを伴う可能性が常にある。
 同時に経営原資である利用料収入を得るためには、施設の利用率の向上を図っていく必要がある。2007年度ベースで大小ホールが約7割の稼働率であったが、2008年度は、やや利用率が低下したということであった。この利用率の低下は共同企業体の経営基盤に直結することから単純な統計データとして見過ごすことはできない。このことからも公立ホールの指定管理業務が、民間事業者が挙って応募したいと思う事業ではないことが理解できる。
 最後に指定管理者の代表団体になっている株式会社エスビーエスプロモーションの今後の指定管理業務への動向を伺ったところ、メディア(新聞・電波)との連携や広告・プロモーション業務も含めた意味での業務拡張の可能性も視野に入れた上での新たな可能性があれば、今後も応募していく意向であるとのことであった。
(草加 叔也)

 


 

3 Arts For Everyone!
−アートはみんなのために!−
施設名 鳥取県立県民文化会館
    (とりぎん文化会館)
設置者 鳥取県
指定管理者名 財団法人鳥取県文化振興財団

はじめに
 鳥取には、美しい自然とともに、古くから先人たちがはぐくんだ伝統と個性のある芸術文化があり、新しい分化を創造する土壌もある。
 鳥取県ではこうした土壌の基、「鳥取文化の継承・創造・再発見を推進し、日常生活の中にある多彩な芸術文化に光を当て、感動(美、真、愛)に溢れる豊かな県民生活を推進する(Beautiful Life in Tottori)」をミッションに創造的文化都市を目指し、文化政策を戦略的に推進している。

1 鳥取県の文化振興施策と主要課題
   平成15年10月「鳥取県文化振興条例」を制定し、県政の柱の一つに文化政策を明確に位置付け国民文化祭の開催等地元の芸術文化の発展に力を注いでいる。
 県の主要課題と業績目標
〈必須条件:県、教育委員会、市町村、大学、文振財団、団体等の連携強化〉
(1)情報発信
  (県民が「ほんもの」「価値あるもの」に気づくための働きかけ)
  ・鳥取の優れた芸術文化、文化活動の情報発信を行う。
  ・先駆的及び認知度の低い分野の県民への浸透(選択肢の拡大へ)
(2)芸術文化活動の活性化
  (裾野の拡大と原点の伸長、アーティストリゾートの推進)
  ・意欲ある文化活動者、団体(指導者・先導者)との協働ならびに活動支援
(3)広く県民が芸術文化に触れる機会の拡充
  ・上質な芸術文化の提供
  ・気軽に参加・体感できる場の提供
(4)次世代を担う子ども達の感性を磨く取り組み
  (きっかけ作り及び人材育成)

2 施設の概要
   鳥取県立県民会館はクラシック音楽の演奏に最も適した美しい響きが提供でき、2,000人の収容力をもつ梨花ホールをはじめ、小ホール1に国際会議にも対応可能な会議室を含め8つの会議室、リハーサル室・大小4つの練習室、展示室等を備えた敷地面積28,994m2、建面積9,291m2、延面積19,316m2の大規模な芸術文化の拠点施設として平成5年10月に開館し、今年で17年目を迎え、20年度からネーミングライツ(とりぎん文化会館)を導入している。
 場所は鳥取駅から徒歩20分、100円循環バスを利用すると「会館前」に着くが市内をぐるりと廻って行く為13から16分程かかり、県庁と隣接している。
 来館した時は丁度、「第7回とりアート2009(鳥取県総合芸術文化祭)」が開催されており雨もようの悪天候にも拘らず様々な催しや、地元の産直品をおいた売店等が館内の広いスペースを利用して開かれ、演者や見学客双方で賑わっていた。
 県民主体で実施されているイベントだったが7回目ということもあってか館の利用の仕方が主催者、観客双方とも準備から上演中の調整、片付けまで技術的な面も含め、非常に洗練され調整がとれており、館と地域が日頃育んできた「共生」、「感動」、「参加」から生じる「喜び」や「地域を元気に」という状況や気持ちが随所から伝わってきた。参加者の層は高校生から熟年世代まで幅広かったが、総体的に女性の数が圧倒的に多く活気に満ちていたことが印象的であった。

3 指定管理者、財団法人鳥取県文化振興財団について
   同財団は、平成4年10月、県によって設立され、以来当館の管理運営を行っており、平成18年度から指定管理者として受託管理を実施。現在、2度目の受託管理者として21年4月から26年3月までの間を受託管理中である。
平成21年度受託金額 23,504.6万円
 友の会会員数;678人(20年度)会費;2,000円
 財団は 1専門的人材の配置
      2効率的で経済的な維持管理
      3安全快適な管理
      4設置者との連携
 を基本方針に行政との密接な連携の基、運営や事業の指針となる文化芸術デザイナーの配置、県民、利用者のニーズや提案を即事業に活かす等様々な工夫、実践の基、積極的かつ果敢に管理運営業務に取り組み、ホール利用率も67%台を維持している。また管理職研修をはじめ職員の自己啓発への助成等幅広く各種研修の強化等を行い職員の意識改革・人材育成にも積極的に取り組んでいる。
 会館配置職員の構成は
 1館長を含むプロパー職員 20名 2文化芸術デザイナーを含む 非常勤職員 9名 3とりアート(県総合芸術文化祭)舞台製作受託事業のための県派遣職員1名 C臨時的任用職員 1名 合計31名である。

4 運営業務の基本方針
1 公正で公平な利用の確保と安全で快適な環境づくり
2 専門的な技術支援
文化活動者をサポートするために、職員の専門性を活かした施設利用に対するアドバイス、技術的支援を行っている。
3 利用者の声を活かした運営
5 にも通じることであるが利用者団体の代表者等による「利用懇談会」の開催やアンケート調査により利用者のニーズを把握するとともに提案を、ホール利用方法やアイデア、事業内容、手法等会館運営に反映し、実践している。
4 安定的収入の確保
倉吉未来中心大ホール等と連携を図り、人の確保や運営に工夫を凝らす他職員自ら様々なコスト削減の取組みを行っているが、利用者にも節電や温度設定の張り紙等経費削減の理解や協力を日頃から求めている。
5 企画提案募集等県民参画による運営
県民や理事、評議員、職員等内外に企画を広く公募し、企画事業の選定や事業化につなげている。
6 利用促進に努める運営と情報発信
県民に文化に関する各種情報を広報誌(「アルテ」の発行)やホームページ等で発信。

5 「5つの使命」のもと事業展開を推進
1

芸術文化活動の発信と交流
文化芸術活動と交流、情報の発信と収集の拠点として、県民をはじめとする文化活動者と産官学が連携し、多様な芸術創造の鑑賞の機会を充実させ、参加と享受を促進。また、郷土に埋もれた文化的遺産の掘り起こしや再評価をはじめ、鳥取固有の伝承文化を育成

2 文化人口の拡大とレベルアップ
活動実践者・鑑賞者・批評家・支援者の拡大とレベルアップを図るとともに県内各市町村の文化施設や県外とのネットワークを形成
3 多彩な人材育成とキャリア開発
県内各市町村や地元企業の参加も促し、地元アーティストや文化活動団体への支援の他職員・活動団体の技術やマネジメント能力の向上とキャリア開発及び次世代を担う若者や後継者の育成等多彩な人材育成を推進
4 子どもの文化芸術活動の推進
子どもが自主的に主体性をもって文化芸術活動に参加し、体験できる環境づくりを、学校などをはじめとする教育機関や地域社会全体と連携して体制を整備し推進
5 県民へのサービス推進
「県民と共に在る」を基本に県民の多様な声を聴き「顧客満足」の観点に立ったサービスの提供、県民の文化的環境づくりを推進

6 CONECTING FOR EVERYONE!(みんなを紡ぐ!)
 財団は二期目の指定管理を受けるにあたり、事業実施におけるシンボルマークを「四つ葉のクローバー」とし、四つ葉の「希望」「誠実」「愛情」「幸運」のメッセージと「ART」の頭文字である「A」、「CONNECTING」(紡ぐ)の頭文字である「C」を四つ葉の背景にアレンジし、「ARTS FOR EVERYONE−アートはみんなのために!−(略称A4E)」を事業ミッションに、そして「CONNECTING FOR EVERYONE−みんなを紡ぐ!−(略称C4E)」を2期目の推進ミッションに掲げている。
 平成18年度以降第一期指定管理期間においては県内文化活動者の発掘と育成を推進し豊かな人材が県内に複数点在する状態を生んだ。二期目はその「点」としての「人材」を「面」としての「人財」に育てていくことを指定管理期間における課題とした。
 「CONNECTING」には「結ぶ」「連結する」「結合する」という意味が含まれており特に「CO」の意味するところは「共に」「一緒に」などの協働の精神が含まれている。
 また、新たな事業計画の考え方及び見直しのポイントとして以下の項目を掲げ平成21〜25年度の事業企画の柱や事業数・実施ジャンル・収支計画を定め、公表し推進ミッションを精力的に実践しているところである。

舞台技術を支えるアートマネジメント人材の育成と強みを生かした事業運営体制の構築
 ア アーティスト主導からプロデューサー及びアートマネジャー主導へ
 イ 財団主導から財団と民間との協働主導へ
 ウ 全方位型事業から選択と集中による事業展開へ
 エ 会館舞台技術者育成から民間舞台業者育成へ
 オ トップレベルの文化活動者の運営体制からその方たちによるバックアップ体制及び若者参画運営へ

最後に
 県のミッション及びそれに基づく館のミッションが明確なこと、県担当者や県民の熱意と館との距離(物理的距離だけでなく心も含めた)が近いこと、文化芸術デザイナーを中心に館が一体となって地域に根付いた公演芸術振興のために県と協調しミッションを実現すべく取り組んでいることが、館の活性化の大きな要因を占めている。
 21年度からは「ARTS FOR EVERYONE−アートはみんなのために−」を事業ミッションに、今まで芸術に親しみのなかった人も段階的(触れる→ホールに出かける→深める)に文化芸術に親しめるよう複数の文化芸術事業を連携した形で展開する等様々な取り組みやきっかけづくりも試みている。
 既に鑑賞者となっている人々を超え、若い男性層を初めとした新たな鑑賞者層への掘り起こしや拡大、地域との協働を促進し、地域の拠点として、また他の手本ともなるような質の高さや創造を館が継続的、安定的に推進し維持運営していくには相応の人的資源や体力基盤も必要となる。
 経済情勢も含めた昨今の厳しい時代背景の中で、大きな課題や困難も予想され得るが官民問わず多くの人々の愛や夢、創意工夫、熱意に支えられて育ってきた館を地域の要として将来的組織的に定着させ、かつ、今後どのように引き継ぎ発展させていくのか期待は大きい。
(小野 雅司・佐藤 やよい)

 


 

4 顧客満足から顧客感動を目指して
施設名 香川県県民ホール
    (アルファあなぶきホール)
設置者 香川県
指定管理者名 穴吹エンタープライズグループ

はじめに
 香川県は平成18年度から県民ホールの運営に、指定管理者制度を導入したが、応募した3事業者の中から選考により穴吹エンタープライズグループを指定管理者に指定した。
 これは、民間事業者が都道府県立の大規模ホールの指定管理者となった、全国で初めての事例である。指定管理者制度導入後、3年半を経過した現在、施設の利用率も高まるとともに、県民ホールの運営及び事業に対する、県民の評価も高くなっているという。
 県は平成20年度から県民ホールにネーミングライツ(命名権)を導入したが、指定管理者の関連会社、「穴吹興産梶vがそのスポンサー企業となった。そのため、現在、県内では、「香川県県民ホール」ではなく、「アルファあなぶきホール」という名称が使われている。しかし、本報告書では、条例上の名称「香川県県民ホール」を使用して報告を行う。

1 香川県の文化振興施策
 香川県は、人・モノ・文化の交流路として重要な役割を担ってきた瀬戸内海に面し、また、大陸の優れた文化をわが国に伝えた、弘法大師空海の生誕の地でもあるなど、文化芸術に関する豊かな環境に恵まれている。香川県は、県民一人ひとりが心の豊かさとうるおいを実感できる元気な香川の創造を目指して、平成19年12月に「文化芸術の振興による心豊かで活力あふれた香川づくり条例」を制定し、個性豊かな文化芸術の創造や人材育成など文化の香り高い郷土づくりに向けた取組みを進めている。
 平成20年10月にはこの条例に基づき、文化芸術の振興に関する施策を体系的に示すため、平成24年度までを期間とする「香川県文化芸術振興計画」を作成した。
 計画では、3つの基本的な方針として、「文化芸術を担う人材の育成」、「文化芸術を育む環境の整備」、「香川の特色ある文化芸術活動を生かした地域づくり」を掲げるとともに、計画期間中に重点的に実施すべき事業などを具体的に定めている。
 香川県県民ホールの運営と事業についても、基本的にはこの条例と振興計画に基づいて、指定管理者により実施されている。

2 施設の概要
 香川県県民ホールは大小二つのホールと各種練習室、会議室を備えた、香川県を代表する文化施設である。条例による設置目的は「県民の文化の振興を図るため」となっている。
 施設は昭和63年に定員2,001席の大ホールを中心とする本館がオープンし、平成9年に定員807席の小ホールを中心とする北館がオープンした。大ホールは大規模コンサート、オーケストラの演奏会、ミュージカル、オペラ、バレエ等の会場として、また、小ホールは中小規模のコンサート等の会場として使用されている。
 場所は日本三大水城として数えられる高松城(現在は玉藻公園)に隣接し、高松港にも面している。建物は瀬戸内の海や城の石垣と調和するようなデザインとなっている。
 交通アクセスはJR 高松駅から徒歩8分、高松港フェリー乗り場から徒歩5分と県民にとって大変便利な場所に位置している。

3 指定管理者について
 香川県は県民ホールの、平成18年4月1日から平成23年3月31日までの5年間の指定管理者として、応募3社の中から、穴吹エンタープライズグループを選定委員会の審査により選定し県議会の承認を得て決定した。公表されている資料によると、選定委員による同グループの提案内容に対する採点は、総合得点が78.3点で、次点を6.4ポイント引き離している。提案内容としては、年中無休制の導入、管理経費の節減、芸術アドバイザーの配置、顧客満足の向上、ミュージカル教室の開催等が高い評価を得ている。
 同グループの主体である穴吹エンタープライズ鰍ヘホテル経営、スポーツ健康増進事業、高速道路のサービスエリア事業等を主業務とする会社であり、以前は劇場、ホールを含む公共施設の運営実績はなかったが、現在では、「指定管理者事業」を事業内容に加えている。
 同社社長のK氏は指定管理者事業への参入の動機と課題について、「ホテルと公共施設の基本は同じです。お客様に喜んでいただくこと、それが基本です。」「ホテル事業はハードにお金が掛かります。税金を投入した公共施設を運営できる指定管理者制度は、ビジネスチャンスです。僕らの培ったノウハウをフルに生かせます。」「ネックは契約期間です。3〜5年ごとに公募があるため、安定的な人材雇用が難しい。」と語っている。
 また、先に述べたように、県民ホールのネーミングライツについても同社の関連会社(親会社)の穴吹興産鰍ェスポンサー企業として決定し(契約期間3年間)、施設名が「アルファあなぶきホール」となった。穴吹興産鰍ナは応募の動機を「香川県の文化芸術の振興に貢献したいと考えているため。」と答えている。県の発表資料によると、ネーミングライツ料の使途については、「毎年のネーミングライツ料の一定額を、県民ホール文化事業などに充当する。」となっている。なお、最近、会社更生法の申請が伝えられている、A工務店は、「現在は資本、人事とも関係のない、別グループの会社である。」とのことである。

4 指定管理者による管理運営
(1)指定管理者が行う業務の範囲
 指定管理者が県民ホールにおいて行う業務は次のとおりである。
1 施設の利用に関する業務
2 香川県が指定する舞台芸術参加事業(ジュニアオーケストラ育成他)に関する業務
3 施設の維持管理に関する業務
4 利用料金の収受に関する業務
5 その他、指定管理者が行う文化事業など県民ホールの円滑な管理運営を図るために必要な業務
舞台業務については、指定管理者が行う業務からは除外されている。これは、舞台業務については県が別途、他の団体に業務委託しているためである。
   


(2)指定管理者としての基本方針
 指定管理者は運営管理の基本方針について次のように定めている。
 「香川県県民ホールは演劇・室内楽・古典芸能などの舞台芸術や県民による様々なジャンルの創作活動を行うに相応しい劇場型多目的ホールのほか、会議・交流会・レセプションなどに利用できる多目的会議室など、多様な機能を備えた文化施設です。
 香川県県民ホールが香川県の芸術文化の拠点として大いに活用され、県民の文化のシンボルであり続けられるための運営・事業を法令遵守し、品位を保ちつつ貢献してゆきます。」

   


(3)顧客感動を目指す職員体制
 職員体制は館長以下CS 推進担当1、運営課6、管理課3、文化事業課5の計16名の体制である。内、正規職員は5名、契約職員が11名となっている。
 館長のM氏はネーミングライツのスポンサー企業、穴吹興産鰍フ執行役員でもある。氏は大学在学中、演劇研究会に属した経験を持ち、関連ホテルにおけるコンサート企画、県芸術祭の企画委員を務めるなど文化芸術について造詣が深く、県民ホールにおけるプロデューサー的な役割も担っている。
 指定管理者は職員体制について、「採用の段階から文化に精通した職員を採用し、“文化のコンシェルジュ”(要望、案内に対応する総合世話係)として県民からの問合せにもアドバイスできるような体制を整えます。」としている。また、CS(顧客満足)推進担当を配置しているのも公立文化施設としては珍しい。このことについて指定管理者は「顧客満足とは、お客様がして欲しいという“欲求(ニーズ)”を満たすことを意味しています。それを更に進めて、顧客感動という考え方は、いわば、期待を超えた驚き(心の動き)であり、お客様がご自身で意識されていない潜在的なニーズに対して、サービスや商品を提供することです。この驚きや意外性を演出し非日常な空間をご提供することこそが、芸術・文化ホールの指定管理者としての責務であると考えております。」と述べている。


5 指定管理者の実績

(1)利用(貸館)事業
 指定管理者は利用者からの意見を大切に、香川県の条例等の法令遵守を基本に守りつつ、柔軟な対応を心がけている。受託にあたって、休館日をなくし年中利用できるホールとしてスタートし、設備の保守点検等は利用のない日を臨時休館日として実施している。
 次に「イールド(歩留まり)マネジメント」の手法により、ホールをより利用しやすくするために、「大ホール、2階席、3階席閉鎖による割引料金」、「ホールでの練習・準備の利用に関しての直前割引制度」などを設けたことにより、利用が増えている。
 また、インターネットの無料接続サービス、ダンボールの無料回収も好評である。

   


(2)自主文化事業(県民への優れた鑑賞機会の提供)
 自主文化事業としては、香川県から委託を受けて実施する、「香川県主催事業受託事業」、指定管理者が実施する「自主事業」、他の主催者と共同で実施する「共催事業」、香川県民にとって、よい鑑賞機会であると判断した「運営協力事業」がある。
 これらの多種の事業を年間を通じて実施し、今までの県民ホールの事業の概念とは異なった分野の催し物を積極的に招くことにより、県民から好評を得ている。


6 指定管理者の業務に対する評価
 

(1)利用団体の評価(顧客「不」満足度調査)
 指定管理者は平成20年10月に、県民ホールの顧客(利用団体等)を対象に不満足度調査を実施した。この結果を指定管理者制度導入以前の平成18年に実施した同調査と比較したところ、「運営・サービスに関する満足度」は80ポイントと、指定管理者制度導入以前と比較し5ポイントの大幅向上となった。しかし、会議室に関する満足度が4ポイント低下し、大小ホールに対する満足度は横ばいであったため、総合満足度は73ポイントと1ポイント増にとどまっている。
 また、指定管理者制度導入後の絶対評価については、よくなった 54.7、 以前と同じ 35.8、 悪くなった 1.4、 わからない、8.2 であった。

   


(2)設置自治体による評価
 香川県では、指定管理者の業務執行に対する「運営実績評価」を行い、それをホームページ等で公表している。それによると、香川県県民ホールの指定管理者、穴吹エンタープライズグループに対する総合評価は、施設所管の文化振興課の評価はA、県庁全体の指定管理者制度所管の人事・行革課の評価はBであった。


指定管理者管理運営状況検証調書より

項目 施設所管課の評価 人事・行革課の評価
施設管理 A A
法令等の遵守等 A B
サービス水準の維持向上 A A
総合評価 A B
平成20年7月31日

 総合評価をBとした人事・行革課の評価
 「施設管理及びサービス水準の維持・向上の面では従前の管理水準や仕様書等に定める水準を実施しているが、法令等の遵守等の面で一部改善を期待する部分(再委託の申請漏れ1件)があった。」


おわりに
 館長はこれまでの指定管理者業務の実績と今後の抱負について次のように語っている。
「この3年間、経費の削減だけでなく、お客様に対するサービスの向上につとめてきたが、単なる民間企業のノウハウでの管理・運営を円滑に行うというだけでなく、“香川県県民ホールは香川県民の文化のシンボルである。”という位置づけを守り、磨くというコンセプトを掲げ業務を続けてきた。できることなら、あと10年間は指定管理者として、このコンセプトを守り育てながら、県民ホールの業務を続けていきたい。」
 指定管理者業務のますますの充実、発展を期待したい。 (松野 幹夫)

 


 

5 地域が主役になる、人が主役になる文化会館運営
施設名 門川町総合文化会館(宮崎県)
設置者 門川町(宮崎県)
指定管理者名 財団法人門川ふるさと文化財団

はじめに
 門川町は宮崎市の中心部から北へ約60kmにある、人口約19,200人の町である。北隣には人口12万人の延岡市、南には人口6万人の日向市があり、両市に挟まれている。
 町の主な産業は農林水産業で、特に水産業は「魚の町かどがわ」として県内では知られている。水産業の拠点、門川漁港から約1km の国道沿いの日豊海岸国定公園、日向灘に面したところに門川町総合文化会館は位置している。施設は文化会館だけでなく、勤労者総合福祉センター(体育室・多目的ホール・視聴覚室・教養文化室)との複合施設である。
 人口、2万人に満たない小規模自治体が文化振興を目的とした財団を設置し、その財団が指定管理者として、アートマネジメントの視点に立った運営と事業を行い、全国に中小規模館としての優れた実践を発信している事例として、門川町総合文化会館を紹介する。

1 ホールの概要
 門川町総合文化会館は「日本一住みよいまちづくり」の一環として町制施行50周年を記念して、建設され、1991年(平成3)4月に開館した。
 ホールの設置目的は、「優れた芸術文化に触れ、交流する場を提供し、教養文化の向上を図るとともに、住みよい地域づくりに資する。」である。
 地理的には、日豊本線門川駅からは徒歩25分と少し離れているが、駐車場も広く、集客には十分な条件を備えている。
 ホールは客席数、670席の総合型の中規模施設である。建設後、約19年を経過していることと、海に近い施設のため潮風の影響を受け、施設、設備の老朽化が進んでいるとのことであったが、施設の外観、内部ともに日常の管理が十分に行き届いているという印象を受けた。このことについては、利用者に快適で安全な施設を提供するため、職員が施設設備に関する技術やノウハウを習得し、日常の保守点検に努めているということであった。
 施設はホールの他に、楽屋3、リハーサル室1であるが、文化会館利用者は必要に応じて、併設の勤労者福祉センターの研修室等も使用できる。
 平成20年度のホール利用率は25.2%であった。町の人口、立地条件等から見て、会館主催の公演以外に中央のプロの団体が営業として当会館を利用することはほとんどなく、また、町民等による平日の利用も少ないので、この数字は、開館以来ほとんど変わっていないとのことであった。このため、当会館では、舞台、リハーサル室、楽屋だけの利用、ロビーの部分利用また、職員が不在の夜間等についても条件付で利用可能にするなど、町民が使いやすく、親しみやすい施設となるように努めている。

2 指定管理者、財団法人門川ふるさと文化財団について
   財団法人門川ふるさと文化財団は門川町総合文化会館の建設と同時に、地域と芸術文化の「つなげ役」を担うことを目指して設置された、宮崎県知事認可の財団法人で、現在は公益法人制度改革の移行期間であるため、特例財団法人となっている。
 同財団は門川町教育委員会所管の財団であるため、社会教育的な立場から文化芸術活動の普及活動に積極的に取り組んでいる。
 文化会館開館以降、15年間は、同財団が改正前の地方自治法により、文化会館の管理を受託してきたが、平成18年4月からは町が指定管理者制度を導入したため、「非公募」で、期間3年間の指定管理者に指定された。
 平成21年4月からは指定管理者制度導入、第2期目となったが、今期からは、町が「公募」制度を導入したため、宮崎県内の民間事業者3社との提案競争の結果、再度、期間5年間の指定管理者に指定された。現在、同財団は、文化会館、勤労者総合福祉会館の両施設だけでなく、町立の野球場、体育館、プール等のスポーツ施設の指定管理者としても指定されている。
 財団職員は5人で、内1名が門川町からの出向であるが、4人はプロパー職員である。
 プロパー職員は芸術文化を専門に学んだものはいないが、開館以来の職場の実践と後に報告するCWAVEの活動及び研修等(管外出張を含む)により実践力を培ってきた。
 このような活動や研修を行うための出張旅費等は指定管理者となった現在でも削減されていないという。

3 地域が主役、人が主役になるための仕組みづくり
   門川町総合文化会館では、地域の人々と芸術文化の「つなげ役」に徹するべく、「地域・人、みんなが主役」を会館運営の目標に定め、文化会館が地域住民に親しまれる場所となるような仕組みづくりに取り組んできたが、指定管理者制度が導入された現在でも、これらの仕組みをますます充実させ、会館の活性化に努めている。
    1 21世紀は子どもが主役 −文化少年団アドベンチャークラブ−
スポーツ少年団を参考に、子どもたちが、町の自然、歴史、そして優れた本物の文化芸術に接することができる仕組み「文化少年団アドベンチャークラブ」を独自に発足させ、活動している。地元の劇団「こふく劇場」との交流による演劇体験など、自主事業にあわせた舞台芸術体験も行い、文化会館を身近な施設として子どもたちは成長している。
    2 芸術文化と地域とのつなげ役 −芸術文化交流推進委員−
「芸術文化交流推進委員制度」は町内外で芸術文化活動を行っている町民の皆さんが、芸術文化と地域とのつなげ役として活動する制度である。自主公演事業の企画制作、劇中歌の作詞作曲、催し物の実行委員あるいは裏方として、幅広い活動が展開されてきた。
各委員はそれぞれが専門性を発揮し、職員では思いつけないようなアイデアや、人脈の活用による会館の活性化が期待されている。
    3 地域の有志による協力組織 −てげてげ倶楽部−
地域有志による、文化会館への協力組織が「てげてげ倶楽部」である。現在の会館運営に欠かすことのできない集団となっているという。
「会館運営のための辛口のご意見をください。しかし、その責任は“てげてげ”(たいがい)で結構です。」という呼びかけに集まった、異業種の町民約50名からなる組織である。駐車場案内、受付、場内外の整理・案内、大道具、機材の搬入搬出等、幅広い業務もこなすが、とくに観客に対しての丁寧な応対は好評で、「てげてげ倶楽部」はまさに地域文化振興の原動力となっている。
    4 他地域の文化会館との連携 −C−WAVE ネットワーク協議会−
公立文化施設には地域における文化芸術活動の拠点としての役割が求められている。
このような役割を十分に果たすための方策として、公立文化施設が互いに連携し、ネットワーク化を図ることが有効である。
C−WAVE(シーウエーブ)ネットワーク協議会とは、九州地区の中小規模の公立文化施設により構成されているネットワーク組織である。門川町総合文化会館の呼びかけにより平成5年により発足した。C−WAVE という名称は文化(Culture)を創造(Creation)し、伝達(Communication)する、うねる波(Wave)となることを目指してつけられたものである。
C−WAVEは文化会館が連携して、芸術団体を共同招聘することにより、地域の人々により低額な料金で質の高い舞台芸術の鑑賞機会を提供することを可能にし、さらに、公演する側の文化芸術団体等からの注目も高まり、積極的な情報提供が得られるようになった。
また、C−WAVEは年に4回、加盟各施設を巡回してアートマネジメント等の研修会を実施するとともに首都圏に出向いて、出演団体との打合せ、助成・支援団体からの情報収集などを協働して行うことにより、連携の強化に努めているが、こうした連携から生まれる日常的な会館運営に関する情報交換は大きな効果をもたらしている。
C−WAVEへの加入施設は平成16年には11施設であったが、現在は市町村合併等の影響を受け、8施設となっている。民間の指定管理者も増え、新たな視点での展開も期待されている。

4 地域主導の自主企画事業
   門川町総合文化会館の事業は町からの委託事業、他団体との共催事業から構成されており、このことについては、他自治体の公立文化施設の状況と大きなちがいはないが、事業の内容は、鑑賞事業(創作公演)、鑑賞事業(買取公演)、教育普及事業、住民参加公演、ワークショップ事業、住民の文化活動への支援、他地域の公立文化施設とのネットワークの形成等と県立の大規模公立文化施設にも匹敵するような多種多様な事業を地域住民の協力により展開している。平成20年度には、合計33事業が実施された。
 本稿では他の中小規模の公立文化施設が参考となるような、共催事業における「キャッシュバック方式」について紹介する。

キャッシュバック方式 −役者・音楽家が文化会館を支える−
   普通、共催事業はホールを施設側が提供し、公演に関する経費を出演団体が負担する代わりに、チケットの売り上げは全額、出演団体の収入とする場合が多いが、門川町総合文化会館ではキャッシュバック方式を実施している。
 これは、共催による出演団体がチケット売りあげの2割もしくは3割を会館にバックする、つまり、「出演団体の入場料収入の一部で会館を支える。」システムである。特に、地元の劇団「こふく劇場」は、会館の施設を稽古場等に継続に提供する代わりに、この方式に積極的に協力している。
 「劇団こふく劇場」はステージ上やホワイエに舞台と客席を特設したり、会館前の交流広場を背景にした公演を行うなどユニークな演出で観客を感動させている。
 「劇団こふく劇場」が門川を拠点の一つにして、10年になるが、門川での合宿稽古の後、門川町総合文化会館で初演し、東京を含む各地方の公演でその芸術性を高めている。
 創作演劇が門川という小さな町から、全国に発信されているわけである。
 門川町民もメンバーとなっている、「門川!こふく劇場」も結成され、年に2回の定期公演を行っている。
 地元住民が多数出演したコンサート形式のオペラ演奏会では、出演者の尽力により700枚のチケットを売り上げ、そのキャッシュバックが職員の1ケ月分の給料相当額となった。
 この方式は公演予算がわずかな場合でも住民への鑑賞事業を提供できる、つまり、地域の人的、文化的資産の活用による、文化芸術の振興のためのモデル的事業といえる。

5 おわりに
   人口2万人弱の町の定員670人のホールであるが、限られた予算や各種助成金を有効に活用し、アートマネジメントの視点に立った会館運営と各種の事業を積極的に展開し、中小規模の公立文化施設の望ましいあり方を全国に発信している。
 特に、地元のプロ劇団との協働で演劇を創作し、キャッシュバック方式の公演により、その作品を住民が観賞するという実践は、「予算が少なく、専門家がいない地方の中小規模館では創作活動の実施が難しい。」という、既定概念を崩した貴重な実践事例である。
 このような素晴らしい実践は、文化芸術の振興を重要視している町当局、財団職員のたゆまない努力、町民の協力体制等による協働によりつくり上げられてきたものである。
 この体制は財団が指定管理者となった現在でも変わっていない。
 指定管理者である.門川ふるさと文化財団では、今後の課題として、「これまで舞台鑑賞に足を運んでいなかった人々へどうアプローチしていくか。」もあげている。町民の皆さんとの協働によりこうした課題を解決し、門川町総合文化会館がますます活性化していくことを期待したい。
 わが国が文化芸術立国をめざすためには、地域における公立文化施設がその政策推進の拠点としての役割を十分に果たさなければならない。特に、地方の中小規模館の活性化が極めて重要である。門川町総合文化会館の実践はそのモデルとなる事例である。 (松野 幹夫)

 


 

6 公共施設管理公社の解散と公募による指定管理者の選定
施設名 沖縄市民小劇場あしびなー
設置者 沖縄市(沖縄県)
指定管理者名 特定非営利活動法人まちづくりNPOコザまち社中

はじめに
 

 1997年11月、沖縄市が出資する第3セクター、沖縄市アメニティプランが運営する大型ショッピングセンター“コリンザ”が、中心市街地活性化の切り札としてオープンをした。整備された商業集積施設は、パークアベニューというショッピングモールの突き当りに位置することから、その配置は、城と城下を思わせる造りである。
 この建物の3階から上層階にかけて複合化されたのが、沖縄市民小劇場あしびなーである。客席数は、290席。小劇場という名前の通り大変小さな公立ホールである。この劇場は、沖縄市のチャンプルー(混ぜ合わせた)文化を発信すること。商業施設の拠点として、地域活性化の役割を担うこと。あらゆる芸術・芸能・文化人の育成に努めること。市民とのネットワークを運営に生かすことを標榜し、この間活動を継続してきた。その結果、開館以来の特色ある活動や事業が注目をされるとともに評価をされ、今日では沖縄県を代表する公立ホールのひとつとしてその名前が広く知られるようになってきた。

 [沖縄市民小劇場あしびなーの施設概要]
 ● プロセニアム形式の舞台を持つ劇場
 ● 延床面積:1,877.121m2 舞台面積:245m2 客席面積:265m2
 ● 客席数:290席(固定席254席、親子席8席、移動席22席、車椅子席6席)
 ● 楽屋:3室、休憩室、スタッフ室、ミーティング室、各調整室など

 沖縄市民小劇場あしびなーが建つ沖縄市は、沖縄本島の中部に位置する。現在の人口は約13万人程度。この数は、県内でも那覇市に継ぐ2番目の人口規模である。しかし、この建物がオープンした'90年代後半にはバブルがはじけ、長期に及ぶ経済的な低迷期が地域経済に及ぼした影響は大きく、沖縄市のあちこちにその影を落としている。閉じられたままで開けられることのないシャッターが目立つショッピングモールやテナントが撤退し、ぽっかりと空いたままの閑散とした商業フロアーなどは、地域が置かれている経済状態を視覚的に認識することができる。
 今回、この沖縄市民小劇場あしびなーを調査対象に選定したのには、いくつかの理由がある。第一に、昨年沖縄市民小劇場の指定管理者選定が公募で行われ、特定非営利活動法人が指定管理者になり、本年度から指定管理者として業務を行なっていること。また、もう一点は、それ以前の指定管理者であった財団法人沖縄市公共施設管理公社は、公益法人制度改革を前に市の方針として新たに選定をされる指定管理者に業務を引き継ぎ、2009年3月に組織を解散する方針が数年前から決められていたことにある。


財団法人沖縄市公共施設管理公社の解散
 

 沖縄県内には、同種の公共施設管理公社を抱えている基礎自治体が少なくない。本来、独立した法人格を持つ団体であるが、行政規模が成長するのに伴い新たな行政施設やサービスを増やしていく中で、一定程度以上に行政職員数が拡大することを避けるため、基礎自治体が100%出資の外郭団体を組織し、新たな施設管理者やサービスを提供する母体として機能を委ねてきた。その結果、時間の経過とともに基礎自治体が整備する施設やサービスが増加することに追従して、受動的に組織規模を拡大させてきた。
 指定管理者制度以前、つまり地方自治法改正前の管理委託制度時の沖縄市では、公共施設管理公社が担う業務は、基本的に施設の管理と運営のみで、それぞれの施設が自ら実施する事業については、基礎自治体がそれを直営する役割分担を行なってきた。ただし、地方自治法の改正が実施されて以降、指定管理者制度が導入され公共施設管理公社が指定管理者に特命で選定されてからは、指定管理料の範囲で細々と公社自ら事業を行なってきた。
 ただし、今回の指定管理者選定の二巡目にあたり、公共施設管理公社の解散が決められた背景には、公益法人制度改革が大きなきっかけになったと考えられる。もちろん、沖縄市の政策である「集中改革プラン」の中では、以下の2つの理由からの公社解散がスケジュール化されている。

民間委託の推進
公営企業等の定員管理目標の純減率推進

 周知の通り、基礎自治体が整備した公共施設の管理運営を定員管理の面から外郭団体に委ねるという手法は、これまで自治体の“都合”で行なわれてきた。沖縄県内では、多くの基礎自治体が公共施設管理公社という組織名も同じ外郭団体を次々に設立してきた。しかし、またしても期を同じくして多くの基礎自治体が、公益法人制度改革の移行措置期間内に公共施設管理公社の解体・解散を進めようとしている。
 以下には、このような外郭団体の解散という選択に至るいくつかの理由を考えてみた。

沖縄市の公共施設管理公社は、解散前まで約50名程度の職員数を抱えていた。しかし、このうちプロパー職員は13名程度で、その他は臨時職員であった。つまり、実質的には10名強の小規模組織であり、将来的な高齢化や経費増に対する対応策が見えない。
管理と運営が主たる業務であるが、千差万別の機能を備える施設固有の専門性を有しているわけではない。まして、文化芸術施設で今後期待をされる自主事業などを実施する専門性を備えていない。
あくまでも沖縄市が全額を出資する公営企業であり、活動の範囲や業務の基準など沖縄市の基準に合致することが求められる。そのため独自の営業や業務の拡大などを図ることに制約がある。

 以上のような理由が、沖縄市の公共施設管理公社解散の決定的理由になったかどうかは定かではないが、近々に迫っている公益法人制度改革に向けて、公共施設管理公社の新たなビジョンを示せないことが引き金になったのではないかと考える。また、沖縄市が「集中改革プラン」で示してきた民間委託の推進という方針とも相まって、解散が判断されたものと考えられる。
 今回の指定管理者公募による法人解散までに指定管理者として財団が運営を行なってきた沖縄市の公の施設は、以下の14施設である。ちなみに、解散時の施設管理公社のプロパー職員については、基本的に基礎自治体に吸収することで措置が図られている。
 沖縄市総合運動場、沖縄市野外ステージ、コザ運動公園、沖縄市産業交流センター、沖縄市都市公園、沖縄市民会館、八重島公園、沖縄市民小劇場あしびなー、沖縄市老人福祉センター、沖縄市泡瀬パヤオ交流広場、沖縄市商工業等研修施設、沖縄市ゆらてぃく広場、沖縄市学習等共用施設、沖縄こども未来ゾーン


沖縄市民小劇場あしびなーの指定管理者公募
     指定管理者の公募スケジュールは、典型的な単年度型で実施をされた。2008年4月以降、担当部局により公募要項等の作成が行なわれた。続いてその年の7月から9月にかけて応募者の公募が実施され、その後審査を行ない、優先交渉権者の決定、仮協定を経て、年末議会である12月議会で指定管理者の議決を受け、本協定を締結。指定管理者となった団体は、2009年1月から3月にかけて公共施設管理公社から業務の引継ぎを行い、2009年4月1日に指定管理協定の発行、業務を開始するという段取りで進められた。
 沖縄市民小劇場あしびなーの公募は、当然設置条令単位の公募が原則であることから、単独の施設として公募されている。しかし、公募期間を同じくして沖縄市民会館と八重島公園が並行して公募されている。あくまでこの3施設については、単独に公募をされているのであるが、公募要項は3施設が合本された形で作成されている。そこにはやや特殊な事情がある。
 沖縄市民小劇場あしびなーと沖縄市民会館が同時に公募されたのは、沖縄市民小劇場あしびなーの施設規模が先にも示したようにかなり小規模であることから、単独公募した場合には指定管理料も限られ、民間事業者が積極的に応募しようという気になりにくいのではないかという懸念があった。また、沖縄市民会館と八重島公園も特殊な事情を抱えている。それは、沖縄市民会館の駐車場の一部が八重島公園の駐車場と実質的に一体的に利用されており、指定管理者の公募に際し駐車場を施設ごとに区分することが両施設の利用に制約を与える可能性がある。つまり、駐車場の一体利用を図るという目的のためにも、沖縄市民会館と八重島公園を一体公募したかったということである。
 さらに、前述の通り、これらの3施設は全て公共施設管理公社が管理運営を行なってきた施設である。そのため、3施設を同時に公募することで、それまで沖縄市民小劇場あしびなーと沖縄市民会館、そして八重島公園の施設管理業務に携わってきた公社臨時職員の転職の機会を確保するきっかけにしたいという沖縄市側の思いもあったようである。以上のような特殊事情への配慮と工夫として、3施設の同時公募が実施されたという訳である。
 次に、実際に公募された公募要項の内容について検証してみたい。先ずこの公募要項が求めている指定管理者の要件であるが、これまでの指定管理者であった公共施設管理公社に準じることを前提としている。そのため施設の「管理運営能力」の有無が基本的に問われている。一般に公立文化施設の業務は、大別すると「事業」「運営」「管理」の3業務に分類できる。沖縄市が、沖縄市民小劇場あしびなー、沖縄市民会館、八重島公園の指定管理者に応募する団体に共通に求めているのは、このうちの「運営」と「管理」だけで、「事業」は沖縄市の直営を原則としている。ただし、予定されている指定管理料の中で指定管理者が事業を行なうことは拒まないというのが公募要項に示されている内容で、いわゆる「上下分離方式」のサービス購入型の公募要項になっている。
 また、指定管理者が実施する管理業務やサービスについては、求めている基準がある程度明文化されているといってよい。しかし、業務基準に事業が含まれていないことからかもしれないが、施設が目指す使命についての記述は、公募要項を通して見る限り明らかにされているとはいい難い。
 その他の点で特記すべきことは、利用料金制の導入と指定管理料の提案である。利用料金制が導入されることは、一定以上の施設利用料金が獲得できなければ経営原資が獲得できないことから施設の利用状況の向上という点では一定の効果があると考えられる。ただし、市の主催事業で100%、学校及び文化団体の利用50%など定量化しにくい利用料金の減免規程が残されている。減免規定は、ケースバイケースで毒にも薬にもなることがある。貸館需要を牽引する投資となり、施設利用料金収入の向上に寄与する場合と反対に、指定管理者の経営基盤になんらかの影響を及ぼす収入減の可能性があるのかは判定は難しい。少なくとも沖縄市民小劇場あしびなーは、施設規模が小規模であることから、そもそもの利用料金収入の規模から考えて体制を左右することはないと考えられるが、沖縄市民会館及び八重島公園については、この限りではないことの懸念が残る。
 もう一点、指定管理料が応募者の提案に委ねられている点である。指定管理料の提案を求める場合、時として価格競争を助長し、結果的にサービスの低下や経営の破綻を招く懸念が常にある。そのことを防ぐには、予定されている指定管理料を事前に開示し、その中で最大・最高のサービスの提案を求めるのが望ましい。ただし、今回の場合は、サービス購入型の公募であり、どちらかというと入札向きの公募要項であることから指定管理料の予定額を事前に開示するという方法は取りにくかったことが想像できる。しかし、実際の公募では、前年度以前の実際の経費が開示をされているので、それを参考に応募者が提案をしたことが結果的に価格競争を助長する制約にたまたまなったとも考えられる。
 この指定管理料の提案に対しては、指定管理期間の債務負担が実施されている。これは指定管理者にとっては、安定的な施設経営と運営のためのインセンティブが確保される仕組みとなっており、応募する側の事情に配慮していることを評価したい。

指定管理者の公募結果
 指定管理者の公募の結果、これまでの公社が解散し応募しないということから、3施設の運営は間違いなく民間事業者に委ねられることが前提であった。公募の結果は、3施設にそれぞれ2団体の応募があった。審査は5名(内、市職員2名を含む)の審査員で行なわれ、最終的に3施設ともに特定非営利活動法人(NPO法人)が指定管理者として指定をされ、2009年4月以降から指定管理業務を既に行なっている。
 審査後、審査委員会から発表をされた選定結果を見ると、「施設の現状に対する考え方及び将来展望」「施設利用の向上に関する計画」「自主事業の企画運営」「人材育成の取り組み」「施設の活用運営」等で評価が高かったことが示されている。実際の提案内容の詳細を細部にわたって確認できたわけではないが、基本的にサービス購入型の公募であることを考えると3施設の運営全般に渡って沖縄市が求めるサービスの基準とそのために拠出される対価の投資効率が良い提案が高い評価を得ることになると考えられる。
 そのことは、審査委員会から公開されている選定結果で示されているように「施設の現状に対する考え方及び将来展望」「施設利用の向上に関する計画」「施設の活用運営」への評価が高かったことからもそのことが伺える。しかし、基本的にサービス購入型の指定管理者公募において「自主事業の企画運営」「人材育成の取り組み」への提案が評価されていることが少し気になる。そもそも公募要項が求めているのは、「管理」と「運営」を効率よく、効果的に、なおかつ廉価で実施することである。さらに「事業」については、従来通り沖縄市の直営が原則であり、そのための原資も指定管理料の中には含まれていない。
 つまり、「事業」を同じ予算の中で行なう場合、事業を行なえば行なうほど、本来業務のための原資を圧迫することになる。もちろん、そのための外部資金の導入や程度をわきまえた自主事業が前提であれば懸念されるようなことには起こらないかもしれないが、本来業務を効率的に行なうことと付加的な事業実施の提案が同等に評価されていることがやや気になる点としてあげられる。
 また、選定結果の後半には、公社職員の採用による各施設のノウハウを活かした継続雇用の提案や沖縄市のイベントなどを数多く手がけた人材の登用について触れられている。ここに示されているのは、指定管理者が沖縄市公共施設管理公社から民間事業者に代わる上でのハードランディングを避け、可能な限りソフトランディングを目指す最良の手段で、これが市民サービスとして重要なポイントであるという見識を審査委員会が示したと捉えるべきか、新たな指定管理者を選定する上では、様々な事情も考慮した上で戦略的にツボを押さえた提案が評価されたと捉えるべきか見解が分かれるところである。
 もちろん、緊急避難的な地域の事情を考えると一定の理解ができないわけではないか、指定管理者の公平な公募を実施する点では、いささか制約となりかねない与件となっていたことも考えられる。

指定管理者:まちづくりNPOコザまち社中
 最終的に3施設の指定管理者に選定をされたのは、2008年10月に設立された沖縄市の文化によるまちづくり目指す、特定非営利活動法人まちづくりNPOコザまち社中である。このNPOの定款第3条には、『沖縄市の推進する「音楽によるまちづくり」の趣旨に沿って、沖縄市の胡屋十字路を中心とした市街地地域を活性化し、産業の振興・人材の育成・観光振興の拡大を目的とした、まちづくり事業・施設運営事業・特産物や街の広報事業および人材育成事業などの活動を行うことを目的とする。』ということが掲げられている。
 現在のNPO職員数は、理事長の照屋幹夫さんを中心に18名。今回、選定をされた沖縄市3施設の指定管理業務以前から、厚生労働省の雇用創出支援プログラムである雇用創出促進事業として、「知花花織人材育成メニュー」「沖縄エンタメ人材育成メニュー」などのプログラムを実践してきている。また、そもそもこのNPO法人の設立趣旨であるまちづくりへの貢献として、沖縄市の中心市街地活性化協議会に市街地整備推進機構として参画をしている。
 このNPOにとっても、文化によるまちづくりを目指す上で、沖縄市の文化施設の中核である沖縄市民小劇場あしびなーと沖縄市民会館の指定管理者になることは、最も重要なことであったかもしれない。NPO法人設立から日が浅いことから、必ずしも組織としての実績が豊富にあるわけではない。ただし、雇用促進事業などの実績に加えて、審査結果にも触れられていたように、沖縄市のイベントなどに関わった実績のある人材を登用した組織であることを実績として、冒頭に示したように中心市街地の象徴であるコリンザの中核施設、沖縄市民小劇場あしびなーの指定管理者に選定されることでここを拠点として、文化によるまちづくりを実践していこうとしている。こうしたまちづくりNPOの趣旨からしても、今回の指定管理者に応募する動機は大きく、理事長の照屋さんが元沖縄市役所職員であったことを差し引いても、選定結果に示されている評価を得られた理由が、少しながら理解できるように思える。
 では、現在までの指定管理業務の実施状況はどうかというと、沖縄市民小劇場あしびなーをはじめとする3施設の指定管理業務を開始して1年にも満たないことから、まだまだ具体的な評価ができる段階には至っていない。ただし、これまで3施設に勤務していた公社臨時職員を指定管理施設の常駐職員としてNPO法人が再雇用をしていることから、新たな指定管理者としては最大限可能なハードランディングを避ける対策ができたのではないだろうか。これからは、業務の基準に沿って安定的な施設の管理と運営を行なっていくことを期待するとともに、まちづくりNPOの本来的趣旨である、文化による沖縄市の再生についても大いに期待したいところである。
 ただし、大きな期待がある反面、どこかでボタンの掛け違いが起こらないかということも懸念される。指定管理者の選定結果にも示されていたように、本来、中間支援型のNPOに期待されるのは、企画能力、そしてその企画を実行に移す実践能力である。ところが、今回の指定管理者に求められているのは、「運営」と「管理」を行なうサービス購入型の業務基準であり、「事業」を行なう場合には、指定管理者が自ら原資調達から行なう必要がある。もちろん、NPO法人も指定管理者に選定をされてから1年にも満たないことから、新たな事業に取り組む人的な余裕があるわけではないだろう。特に4月以降、指定管理業務がスタートしてからは、急激に業務量が増えていることが想定される。先ずは、業務の基準に示されている指定管理業務を軌道に乗せることが最優先的課題である。その上で新たな業務を実践するための体制を築いていくことが本来望ましいと考える。
 さらに、特定非営利活動法人が施設管理を行なっていく上で経営的課題になっているのが、リスクに対する対策である。まだまだNPO法人の経営的基盤は脆弱で、そのための対策も十分に行なわれている訳ではない。今後、何らかの事業を行なっていくためには、原資を調達すること以上に、事業リスクを回避するため仕組みが必要になる。つまり、いざという時の“蓄え”や“対策”をどのように組み立てていくのか。安定的な公共施設の運営を行なっていく組織にとっては、欠くべからざる要件であることは間違いない。

沖縄市民小劇場あしびなーの指定管理者公募から学ぶ課題
 地域には、地域独自の固有の課題が数多く点在する。新たな制度を導入するためには、その前に点在する様々な課題の整理や対策が先ず求められる。今回は、指定管理者制度の導入状況についての調査を行なったが、指定管理者制度は地方自治法の僅かな一部の改正にしかすぎない。地域には、それ以前に数十年もかけて築き上げてきた地域の事情や現実があり、そこにはまた、地域が時間をかけて積み重ねてきた多くの歪を抱えている。
 公共施設の管理運営組織として設立された公共施設管理公社も、公益法人制度改革や指定管理者制度などを導入して行く上では、ひとつの課題となっていた。もちろん、出口の見えない経済的な停滞状況が、そのことの拍車をかけたかもしれない。職員数の定数管理、利用料金制度の導入、指定管理料の債務負担行為、施設利用料の減免規定なども新たな制度を導入していく上で制約となることもあり得る。
 沖縄市民小劇場あしびなーは、これまでに実施されてきた活動や事業によってその存在を知らしめてきた。そのことは公社が管理委託を受けていた時代から同様で、市は直営で事業を実施するが、そのために市は専門のプロデューサにプログラミングを依頼してきた。このことは今回の公募でも全く代わらず、その前提で指定管理者の公募も行なわれた。
 今後、この方針に何らかの変化を生じるかもしれないが、先ずはこれまでに培ってきたそれぞれの施設と役割を十分に尊重しつつ、新たなステータスを気付いていくことを期待したい。
(草加 叔也)

 [沖縄市民会館の施設概要]
 ● プロセニアム形式の舞台を持つ劇場
 ● 延床面積:8,463.14m2
 ● 大ホール:1,561席(車椅子席16席を含む)
   舞台高さ:8.6m、舞台間口:20m、舞台奥行:17m
   舞台設備:廻り舞台、オーケストラピット他
   楽  屋:主催者控室、楽屋×3室、小会議室、貴賓室 ほか
 ● 中ホール:450席
   舞台高さ:4.5m、舞台間口:9m、舞台奥行:8m
   楽  屋:楽屋×1室、小会議室、貴賓室 ほか

 [八重島公園の概要]
 ● 敷地面積:6.7ha
 ● 施  設:便益施設(便所×4、水飲場×7)
        遊具施設(遊具×20、砂場×1)
        運動施設(遊具×2)
        管理施設(公園灯×35)

 


 
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