改修相談

4 具体的な改修事例

4-1 老朽化による建て替えではなく、大規模改修を選択した例

1920~30年代に建てられたホールでも、別府市公会堂(1928年)、日比谷公会堂(1929年)、宇部市渡辺翁記念会館(1937年)などは、建て替えではなく大規模改修をして継続的に使用することを選択しています。また、1959年開館の小松市公会堂等、耐震化工事はせずに天井だけ改修したホールもあります。
この他、規模を縮小する方向での改修を決めたホール(岡崎市民会館:1967年)、市民に親しまれる施設としてオリジナル性を尊重して改修された事例(弘前市民会館:1964年)等、老朽化への対応は多様です。各自治体にとって、その建物がどのような価値があるのかという点も踏まえ、具体的な方法を検討していくことが求められます。

4-2 ホールを運営しながらの改修した例

コストがかかる運営しながらの改修

近年、サントリーホールが平成25(2013)年8月から26年9月までの14カ月間の間、まったく休館することなく、耐震化工事を行った事例があります。もちろん、工事に伴う振動・騒音は避けられませんので、夜23時から翌朝7時までの夜間工事で行われました。
ほかにも、公演と工事の時間帯を昼夜で分けて実施した事例がありますが、その場合でも工事道具や足場建設部品等が客席等に落ちる、あるいはサントリーホールの場合、天井に落ちたビスが残っていた場合に共鳴してノイズが出る危険がある、あるいは毎日公演があるため火が使えず、溶接もできないなど多くの制約があり、非常に細かな施工管理が必要とされました。そのため、工事の長期化、工事費のアップが避けられず、改修期間中は休館するのが一般的となっています。

プロセスを重視して優先順位を決める

サントリーホールなどのようにきわめて稼働率が高く、休館して改修ということになると相当先延ばしにせざるを得ない場合のように、稼働率が高く代替施設が少ない等の事情でホールを休館せずに改修工事をする場合でも、危険度や社会的要求、法などを勘案しながら改修の優先順位を決めて、一部ずつないしはエリアごとに進めていくことが現実的です。
市民は安全のため天井の老朽化対策を望み、公演者は照明機材や舞台機構の更新を希望し、行政は法を順守した改修を進めたいと考えます。このなかで何を重要と考え、どの順序で取り組むかは、これまでの改修履歴を十分検討したうえでホール側の意見を尊重し、最終的には設置者側が判断することになります。稼働率が高いホールのなかには、長期の休館を避けて年間3カ月ずつ休館し、3~4年計画で分散させながら改修を行ったところもあります。
休館にあたっては、利用者にどう改修してほしいか要望を聞くプロセスを設けると、市民の理解・協力を得やすくなります。こうしたアカウンタビリティの確保が改修継続の円滑化のひとつのポイントとなっていきます。

4-3 歴史的価値を継承・復元しながらの改修した例

近年、歴史的建造物に対して強い関心が寄せられるようになり、文化遺産として建築物を保護する機運も高まってきました。施設の改修に当たっても、歴史的文化遺産としての建築の意匠やたたずまい、空間を維持・継承・復元することも、今後の改修においてますます重要となることと思われます。
その一例として、平成25(2013)年に竣工、翌年1月にリニューアルオープンした弘前市民会館の改修工事が挙げられます。世界的に著名な前川國男建築設計事務所設計による弘前市民会館は、平成20年の「歴史的まちづくり法」制定を機に策定された「弘前市歴史的風致維持向上計画」により「歴史的風致形成建造物」の一つに指定されました。
改修に当たっては「継承と革新」をテーマに、市民や利用者、関係者の声に耳を傾け、市民の思いを大事にして建物の意匠、またオリジナル・ソファに至る細部についてもオリジナリティの再生・維持に努める一方、建築性能の健全化、劇場機能の時代ニーズへの対応、利用者への今日的サービス提供のための舞台機構及び設備の更新を行い、歴史的価値を継承するにとどまらず、機能的な価値を高めている事例です。
ほかに、平成26(2014)年の安田講堂(1925年竣工)の改修工事の例もあります。安田講堂は平成8(1996)年に登録有形文化財の指定を受け、内田祥三や岸田日出刀らの設計による優れた創建意匠を持つ建築物で、歴史的価値の継承を目標に、竣工当時の意匠を保存、一部復元しながら耐震化をはかり、竣工当時と同様にガラス天井上部からの自然採光機能も復活されました。

前川國男のオリジナルスツールなどが復元された弘前市民会館1階ホール

弘前市民会館1階ホール

写真提供:本杉省三 日本大学理工学部 特任教授

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