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ハード面の対応

劇場法では、劇場・音楽堂等を「新しい広場」として定義し、広く市民に開かれた場となることを目指すとしています。しかし、劇場・音楽堂等は基本的に階段状の空間で、暗い中での鑑賞、限られた休憩時間内でのトイレ利用等、障害のある方や高齢者にとって、空間的、時間的に解決がむずかしい課題を抱えた施設です。
誰もが自由に移動でき、等しく利用できる施設にしたいという改修目的は単純ですが、施設が古く、また財政的な問題から、バリアフリーについて当面の改善が見込めない施設も少なくありません。とはいえ、社会的にも法的にもバリア解消の改善が求められており、できるところから少しずつでも取り組んでいく必要があります。
「劇場・音楽堂等アクセシビリティ・ガイドブック」第4章で取り上げている内容を中心に課題をまとめてみましたので、今後の取組の参考としてください。

また、簡単なチェックリストを作成しました。まずは、皆さんが働く施設のチェックをなさってみてはいかがでしょうか。

 監修:本杉省三(日本大学理工学部名誉教授)

アクセシビリティ・マップの作成

2つ以上のルートで施設にアクセスできること、その情報をホームページなどで公開することが必要です。特に都市部の駅周辺には様々な商業施設ある場合も多く、その施設内のエレベーターなどを利用すれば、よりスムーズにアクセスできるルートがあっても、情報発信までには至っていないようです。劇場周辺の商業施設、他事業所などにも協力してもらい、アクセシビリティ・マップ作りを進めることができないでしょうか。

周辺状況改善への取組

車道・歩道の小さな段差は、車椅子利用者には転倒につながりかねませんが、視覚障害者にとっては車道・歩道の区分を認識する上で分かりやすい指標でもあります。その妥協点として、段差は2㎝とされています。駅からのアクセス、ルート及び敷地周辺で問題となる箇所があるかどうか見回り、改善すべき点などがあれば、その施設管理者と協議することも必要でしょう。

詳しくは、ガイドブック第4章p.42~43をご覧ください。

エントランスまで

肢体不自由者にとって問題になるのが、タクシーや車寄せから施設入口までが遠いこと、屋根や庇がなく雨に濡れてしまうことです。また、入口ホールがなく、開場前は外で待たなければならない施設状況は、誰にとっても困る問題で改善が必要です。

駐車場

出入口の発券機が手の届かない高さ・位置にあるという問題もあります。手が不自由で駐車券を取ることができない人もいます。また、駐車できても、地下駐車場からエレベーター、玄関入口の間に段差がある、ドアが開き戸であるなどといったことで、アクセスが難しいこともあります。

詳しくは、ガイドブック第4章p.43をご覧ください。

サイトラインの確保

劇場は、舞台で行われている出来事を見聞きして楽しむ場であり、見えること・聴けることは施設計画上とても大切なこととされます。観客席の設計では、観客全員が同じ体形・同じ姿勢で座席についている状態で計画されますが、車椅子の方にとってもできるだけ満足度の高い客席となるよう、客席数の0.5%を車椅子席とし、良好なサイトライン確保を目標に客席を見直してほしいものです。

車椅子席の位置

多くの施設では、車椅子席を客席最後部や中通路の出入口付近に設けています。その理由は、車椅子利用者自身がホワイエなどから平坦に移動できアクセスしやすく、また非常時にも避難しやすいためです。

選択制のある複数の位置・レベルで設置

客席最後部や中通路出入口付近だけでなく、もっと前や中央部で鑑賞できるよう各レベルに車椅子席を設けてほしいという要望もあります。このため、車椅子席を固定化せず、取り外しできるようにして、要望に応じて車椅子席を設ける方法もあります。中通路の舞台寄りに車椅子席を設ける場合の留意点は、車椅子席だけでなく、車椅子席後方列席のサイトラインを確保するよう、レベル設定に十分留意する必要があります。

前列席の人が立ち上がっても舞台を見通せる車椅子席

多くの車椅子席では、前方席の人が立ち上がった時に舞台がまるで見えなくなってしまいます。舞台と客席が呼応して一番盛り上がっている時に自分だけが置き去りにされている感じで、疎外感を味わうことになってしまいます。前方席の人の行為に影響されず舞台への視線を確保するためには、最前列席に車椅子席を計画するか、前列レベルより1.2m程度高くするしかありません。平土間構成のホールや緩いスロープで出入口から最前列まで校正できる場合には、積極的に改修して欲しいものです。

ロック等大音量公演の場合

ポピュラー、ロック系音楽など大きな音量を出す公演では、最前列はその音から逃げられません。自分の意思で容易に移動できず困ることにもなりかねないので、是非、事前に車椅子利用者と話し合ってください。

非常時の避難方法

各レベルに車椅子席を設けたり、列全体を車椅子席として中央部にも設置した場合には、非常時における避難方法を併せて考えておく必要があります。周囲にいる他の観客の協力が不可欠です。

エレベーターが停止したとき

非常時や停電時にエレベーターが停止する状況も考えておく必要があります。避難階(1階)以外に車椅子利用者がいる場合、手動式の階段昇降機を利用して避難することになりますが、非常時には人手が分散し不足する事態も予期されることから、一時的に退避できる場所を計画することも必要です。

点字による座席番号表示

座席に点字で番号表示施した施設がありますが、現実的には係員等に案内してもらう方が合理的です。

身体障害者補助犬(聴導犬、盲導犬、介助犬)と一緒に鑑賞する場合

周囲の観客に犬が苦手な人やアレルギーを持った人がいないか確認し、補助犬の居場所を確保しておくことが必要となります。観客に協力・理解してもらうなどソフト面での環境づくりを整えていくことが重要です。

詳しくは、ガイドブック第4章p.43~44をご覧ください。

大きな音に敏感に反応してしまったり、情緒が不安定になってしまったりして、突然声をだしたり行動してしまう人たちがいます。周囲の観客に迷惑をかけずに落ち着いて鑑賞できるよう遮音性能のある部屋を用意しておくことが必要です。多くの施設では、親子室などと呼称されることが多いですが、その利用は幅広く捉えられてよいでしょう。

詳しくは、ガイドブック第4章p.44~45をご覧ください。

客席内の段状になっている縦通路で、椅子の背に手をかけて歩いている観客をしばしば見ます。観客の安全を考慮して、手すりや椅子の背板部分につかまり棒などを設ける施設が増えてきています。客席内手すりは、視覚障害者にとっても有効です。

詳しくは、ガイドブック第4章p.45をご覧ください。

ヒアリングループ

近年のホールでは、難聴者の「聞こえ」を支援するヒアリングループを導入しているところが多くなっています。固定設備のほかに、持ち運びできる移動型(携帯型)もあります。

字幕サービス

オペラ公演ではかなり普及してきています。液晶などによる字幕があれば、場内アナウンスなどが聞こえない聴覚が不自由な人たちには有効な伝達手段となります。ただし、今後ともすぐには対応できる見込みがない施設では、モニターなどより費用がかからない別の手段を探る必要があります。

非常時のアナウンス

アナウンスに関し、聞こえない人たちのために、字幕やランプ等でわかるようにしてほしいという要望もあります。こうした課題に対しては、設備として応えていくことも必要ですが、観客皆の協力が非常時には特に大切です。

詳しくは、ガイドブック第4章p.45をご覧ください。

開演時間及び休憩時間等の案内・表示

一つの方法でなく、複数の方法で知らせることが良いでしょう。一般的には、ブザーや音声による案内と客席内に設けられている休憩時間表示等で対応している施設が多いですが、ホワイエ内にも休憩時間の残り時間が表示されると安心できます。

ビュッフェ

立って利用するよう設計されているため、車椅子利用者にはカウンター上の品物が見えません。このため、メニュー表示を含めて、車椅子利用者が近づきやすいよう膝が入る工夫が必要です。また、聴覚障害者にとっては口頭での伝達が難しいため、メニューボードを指して注文できるような配慮も求められます。

詳しくは、ガイドブック第4章p.45をご覧ください。

一般ルートに沿った車椅子ルート

特に、障害者用のルートを別に設けるということでなく、メインルートに沿ってできるだけ近い位置に自然な形でエレベーターや車椅子用のルートが計画されていることが好ましいでしょう。また、非常時にエレベーターが停止した時、聴覚障害者が外部に緊急連絡できるような設備を用意しておく必要もあります。

重い車椅子を考慮したリフター

既存施設の改修等でリフターなどを設置する場合には、その積載荷重に留意する必要があります。最近のチルト機能付きなど海外製の電動車椅子はそれ自身で100kg以上あるものもあります。今後の重量化を考慮すると、階段昇降機やリフターの積載荷重は、より余裕を持ったものを導入するよう計画すべきでしょう。

停電時・エレベーター停止時でも使える階段昇降機

停電を想定した場合、手動式の階段昇降機を備えておきたいものです。階段昇降機の導入にあたっては、非常時における人手の少なさを考慮すると、できるだけ単純で扱いやすいものであることが好ましいでしょう。車椅子席数に対して何台用意するのか、どこに用意できるかも併せて考えておく必要があります。

詳しくは、ガイドブック第4章p.46をご覧ください。

簡易型の導入

車椅子利用者などが使えるトイレが各レベルに複数配置されていることが好ましいですが、いわゆる「多目的トイレ」「誰でもトイレ」などと称されるフル装備のトイレは広さも必要とされます。よりコンパクトな簡易型の多機能トイレ(オストメイト対応、オムツ交換対応、車椅子対応など)を機能分散することで、混雑を回避する方法を考えてもよいでしょう。
視覚障害者は触手で確認するため、広くて様々な機器が装備されている多目的トイレは、むしろ困惑するようです。

詳しくは、ガイドブック第4章p.46をご覧ください。

建物内

入口から案内や受付までは点字ブロックによる誘導、その後は係員など人による案内が一般的でしょう。複合ビルなどにある施設では、一般の主動線がエスカレーター、車椅子利用者動線は奥にあるエレベーターなどといったように、止むを得ず分かれてしまうこともあり得ます。乗り口、エレベーター内部、降りた所などにも一般主動線と同様のサインやピクトグラムを忘れないようにしましょう。

触れる立体模型

触って立体感が感じられるホールの内部模型は、視覚障害者にホール空間をイメージしてもらいやすく、空間全体と自分が座っている座席、音と空間の関係などをより具体的に認識する助けになります。床、壁、天井を含めてホールを半分に切ったような断面模型や、天井取り外し式の模型でも良いでしょう。3Dプリンターによる立体模型の活用も可能でしょう。

持ち運びできる触知図

触って理解してもらう案内、サインとして有効だと思われるのが、持ち帰れる蝕知図です。通常のプリンターで白黒印刷する時に「カプセルペーパー」という特殊な用紙を使い、それを立体コピー機(立体イメージプリンター)にかけ熱を加えると、黒い部分が立体的に盛り上がるというもので、比較的手頃な価格で作成できます。持ち帰ることができる蝕知図は事前に概要を理解でき、安心だそうです。

詳しくは、ガイドブック第4章p.46~47をご覧ください。

楽屋と楽屋トイレ

近年の施設では、楽屋エリアにも多目的トイレが設置されるようになってきました。既存施設でも改修に際して同様の計画が実施されていることは、出演者側にもそれを必要とする人がいる以上、大切なことです。

ドアの開閉方式

開き戸でなく引き戸とし、ノックされても分からない聴覚障害者のためには、サインランプのような表示をする、小窓を設けて視覚的に伝えるといった工夫があるとよいでしょう。

和室楽屋の改修

畳敷きの楽屋もあります。車椅子利用者にとっては、段差があること、車椅子移動で畳表を破損させてしまいかねないこと、化粧前高さが車椅子に合っていないことから不便です。
改修などにあたっては、よりフレキシブルで使い勝手のよい楽屋への改修が勧められます。
こうした古い施設で見られる楽屋トイレ入口の段差、狭い扉、場内アナウンスが届いていないことなども障害者を困らせるものであり、早急な改善が望まれます。

楽屋廊下と表示

観客エリアと異なり、楽屋・舞台エリアにおいては、障害者も自立的活動が多くなるため、視覚障害者からは、楽屋エリアこそ点字ブロック、段差、スロープなどの警告や室名・室番、トイレなどの点字表記が望まれています。
しかし、床の突起物に関しては、他の出演者やスタッフなどにとっては、かえってつまづきやすく、物の移動に支障をきたすものとして受け入れがたいとされます。この点については、両者の折り合いをどのような工夫で打開できるか、さらに協議・検討が必要となるでしょう。

楽屋・舞台・客席のレベル差

楽屋・舞台・客席をレベル差なく移動できることが求められています。客席最前列席と舞台との間にレベル差があるホールでは、何らかの方法でそのレベル差を解消しなくてはならりませんが、仮に1mのレベル差があり、それをスロープで解決しようとすれば、水平距離にして12mも必要となり、難易度はかなり高くなります。

詳しくは、ガイドブック第4章p.47をご覧ください。

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