平成29年度文化庁委託事業 劇場・音楽堂等基盤整備事業"情報フォーラム"
「劇場・音楽堂等と地域文化創生」

講演1 「2020年とそれ以降に向けた文化情報発信のあり方 ~文化情報プラットフォーム~」

坂村 健
INIAD(東洋大学情報連携学部)学部長/東京大学名誉教授

(1)文化情報プラットフォームの目的

皆さまご存知の通り、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会は「文化の祭典」でもあります。その機運醸成のため、国際オリンピック委員会と日本オリンピック委員会は多数の文化プログラムを推進しています。具体的には、前大会終了から東京大会までの間に20万件の文化プログラムを開催するという数値目標が掲げられています。「文化情報プラットフォーム」は、こうした背景の下、インターネットを始めとする情報通信技術を使って、全世界に20万件の文化プログラムの情報を発信し、文化芸術立国に資するための仕組みです。

プラットフォームとは、誰でも使える共通の基盤という意味です。自前のウェブサイトをつくる人員や予算がなくても簡単に情報発信ができ、その仕組みに載せれば、提供されたデータを旅行社や出版社など誰もが使えるようになる情報流通の基盤です。これを「オープンデータ」といいます。具体的には文化プログラム、イベント、展覧会や付随する講演会などの期間特定のデータから、史跡や展示物案内、施設のアクセスなどの一般情報までを国内外に発信し、これによって日本の魅力を伝えることにより、文化的な交流、経済活性化、地方創生、観光分野への波及を図っていきます。

(2)文化情報に関する課題

文化情報を対象にしたホームページは現在でも多数存在していますが、これらの情報はバラバラで、一元的に管理されていませんでした。また、公開された情報を第三者が活用して発信したり、サービスを構築するなどには制約が大きく、文化情報を公開・活用するための共通の枠組みがありませんでした。このため、まずはさまざまな情報を共通に扱うオープンな情報流通の枠組みと、機械が読み取れるデータ形式で情報を入力することが必要です。

次に、このような枠組みがあれば多言語対応に関して、人工知能を使った機械翻訳を積極的に活用できるようになります。最新型のニューラルネットなどを使った機械翻訳の精度は日々向上していますので、2020年までには世界100ヶ国語以上への翻訳も実用的になると考えられています。文化情報の翻訳には用語や背景知識など難しい面もあり、強化学習型の人工知能の精度向上には、この分野についての大量のコンテンツデータの蓄積が必要ですが、この点でもプラットフォーム化の強みが発揮されるはずです。

なお、これらの大量の情報登録や編集を考えると、施設管理者やイベント開催者だけで行うのは負担が大きいため、編集やチェック等を一般の方々の協力を得ながら進められる仕組みが必要になります。そこで、ボランティア等の一般の協力者に「編集」権限を付与して内容の編集・チェックを実施してもらったり、それでも最終的な情報公開は「公開」権限を付与された施設の職員(管理者)等が専管的に行うなどの権限分散の体制が重要になります。

さらに、プラットフォームへの積極的な入力を促すためには、情報登録へのインセンティブも不可欠です。単に集客のための発信チャンネルとして認知してもらうだけでなく、プラットフォームへの定形入力によって魅力的なウェブサイトが自動生成されたり、予約システムやチケットシステムを低コストで利用できる等、事業者や施設等が利用したくなるサービスを積極的に整備していきます。

情報の正確さについては、皆で入力する場合、間違いは避けられないので、これを速やかに修正できる仕組みと、発信者の責任範囲や権利関係を明示する仕組みも用意していきます。

(3)文化情報プラットフォームの現状と今後

現状の文化情報プラットフォームは、情報を共有できるデータベースがすでにできており、オープンデータとして誰もが使える仕組みがあります。文化庁もこれを積極的に使おうということで、文化情報プラットフォームの情報が見られるポータルサイトとして「Culture NIPPON」が公開されています。ぜひアクセスしてみてください。「beyond2020プログラム」の電子申請の受付も行っています。(http://culture-nippon.go.jp/

現在、文化庁のほか内閣官房、新潟市、京都府などが「beyond2020プログラム」関係の運用を行っています。その他、東京2020文化オリンピアード、文化庁の関西元気文化圏、国立劇場、新国立劇場、全国公立文化施設協会なども登録されています。

今後は著作権等法的な対応の一元化も行い、データ登録者自身が公開条件を設定できるクリエイティブ・ライセンスをつくって、情報発信者の意向が反映される仕組みをつくっていきます。文化情報プラットフォームはあくまでプラットフォームであり、これを利用してのアプリ作成やビジネス利用など多くの方々の参加による多様化を期待しています。そのためにも権利関係の明確化を重視しているのです。

最後に、何といっても情報収集が非常に重要です。文化庁の委員会では、企業の文化イベント等を含めれば、開催目標数の20万件に届きそうだと試算しています。多彩な主体が文化活動を展開していますので、できるだけ多くの方に周知して理解していただき、日本の魅力を高めるための発信をしていただきたいと思います。ぜひご利用をお願いします。

平成29年度文化庁委託事業 劇場・音楽堂等基盤整備事業"情報フォーラム"

開会挨拶

基調報告

文化政策の動向と今後の展望について

講演

  1. 2020年に向けた文化情報発信のあり方
  2. 文化庁京都移転と地域文化創生

パネルディスカッション

  1. 公共文化施設は誰のため、何のため
  2. 転換期の日本の文化政策に劇場・音楽堂等はどのように貢献すべきか
  3. 人と人との交流を基本とする劇場・音楽堂等の新しいあり方

意見交換・質疑応答

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