平成29年度文化庁委託事業 劇場・音楽堂等基盤整備事業"情報フォーラム"
「劇場・音楽堂等と地域文化創生」

パネルディスカッション 報告3
「人と人との交流を基本とする劇場・音楽堂等の新しいあり方」

大石 時雄
いわき芸術文化交流館アリオス支配人

(1)地域社会が抱える課題に向き合う

現在、地方都市では人口が減少し、お年寄りが増え、子どもが減り、統廃合で学校がなくなる地域が出ています。学校に行かない子どもも増えています。大学を卒業しても、非正規雇用の職にしか就けず、結婚や出産をしない人が増え、家族を持てない人や、家族を失う人もいて、家族や職場、地域コミュニティが人生のセーフティネットにはなり得なくなっているのが現状です。これらの課題を解決していく手助けを、劇場・音楽堂等や芸術文化ができないかと考え、行政の人と語り合う中で、施設を運営し事業方針をつくっているのが今の私の職場です。

そもそも劇場・音楽堂等のミッションとは、住民に対して「地域社会のより良い未来を皆の力を合わせて一緒につくっていきませんか」というビジョンを、自治体と一緒に提示していく力を備えることです。それが我々専門家に必要なスキルだと考えます。劇場・音楽堂等の活性化に関する法律(通称:劇場法)の前文の附則にある、「劇場・音楽堂等は人々の共感と参加を得ることにより、新しい広場として地域コミュニティの創造と再生を通じて地域の発展を支える機能も期待されている」という部分が、文化施設の新しいあり方のヒントを示しています。

東日本大震災から6年半経ち、被災地の一つであるいわき市では、元からの住民と2万人以上の避難者の間の軋轢が問題になっています。復興に取り組みながらお互いに支え合い、共に生きていくために、交流の流れを後押しするのも地域の劇場・音楽堂等の役割ではないかと考えて地道に活動を続けています。

(2)「サードプレイス」と「市民協働」

地域の劇場・音楽堂等の新しいあり方、ミッションを考える際に私がキーワードにしているのが、「開放性」と「関係性」です。使用料金を設定していない諸室やスペースを整備して無料で開放すること、住民と職員の関係を丁寧に築いていくことの二つを大切にし、これを実現する具体的な手段として「サードプレイス」と「市民協働」という考え方を取り入れています。

「サードプレイス」とは、アメリカの都市社会学者のレイ・オルデンバーグが述べている概念で、一番目の自宅、二番目の学校や職場に次ぐ第三の居場所です。コミュニティの核となると同時に、個人が豊かに暮らすために不可欠な、公式でない公共の集いの場所と定義されています。この機能を劇場・音楽堂等が果たすための試みとして、アリオスでは施設を無料で市民に開放し、好きな時に好きな場所で居心地よく過ごせる空間づくりに取り組んでいます。

「市民協働」は、これまでの「市民参加」と異なり、事業の企画から制作進行・広報・事業宣伝・チケット販売、本番当日の運営も含めて、全てのプロセスを市民とアーティストと職員が一緒に担う取組みです。例えば公演事業の場内放送を市内の高校の放送部員が行うなど、市民でも出来ることは出来るだけ市民に手伝ってもらう。そういう工夫をしています。

従来は市民の中でも文化芸術活動をしている方の発表の場所として劇場・音楽堂等を整備し、地元で音楽や演劇、ダンスが好きな人のために自主事業をやってきました。これは今後も必要なことですが、「市民のために」を「市民と一緒に」と言い換えることで、市民と職員が一緒に汗を流し知恵を出し合い、同時にコストパフォーマンスも上がる仕組みをつくるところが、従来の「市民参加」から「市民協働」にバージョンアップした部分です。

施設を「サードプレイス」として開放するとともに、市民と専門家が自主事業での「協働」を通して信頼関係を築く。アリオスはこのように、開放性と関係性をコンセプトにした施設運営と自主事業を展開しています。

平成29年度文化庁委託事業 劇場・音楽堂等基盤整備事業"情報フォーラム"

開会挨拶

基調報告

文化政策の動向と今後の展望について

講演

  1. 2020年に向けた文化情報発信のあり方
  2. 文化庁京都移転と地域文化創生

パネルディスカッション

  1. 公共文化施設は誰のため、何のため
  2. 転換期の日本の文化政策に劇場・音楽堂等はどのように貢献すべきか
  3. 人と人との交流を基本とする劇場・音楽堂等の新しいあり方

意見交換・質疑応答

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